旦那の居場所  

居酒屋のおやじを夢みて



居場所 4k


女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」
これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。


盛り塩、打ち水、木の格子。敷石、玉砂利、ししおどし。引き戸をあければカウンター。 ここは、住宅街の駅前・・はずれ。「お帰りなさい」なんて野暮な言葉はかけないで。 料理の手は休めず、「いらっしゃい」やさしい目だけが笑ってる。居酒屋のおやじを夢見て、 今日も食を愛で、食を楽しむ・・ダンナの居場所。

その第19回は・・・・

  蕪礼賛  

「蕪」との出会いは、小学校の2年生。学芸会での「大きなカブ」に遡る。 その他大勢のネズミの役で、「大きなカブ」を引き抜いた。 抜けた瞬間大騒ぎ、見事ハッピーエンドとなるわけだが、 「?カブってそんなにおいしいの?」と、子供には馴染みの薄い野菜だったと思う。

● ● ● ● 蕪うまさの秘密 ● ● ● ●

のうまさは、木目の細かい肉質にある。しゃきっとしている上に弾力のある肉質。 噛み心地を楽しんでいると、すぐに甘味が口中に広がる。 漬物、煮物、汁物。加熱の具合で食感も変化するし、肌の色も劇的に変わる。 舌でとろける柔らかさ。一瞬歯を跳ね返す弾力。しゃきっとほとばしる硬さ。 白磁のようなまぶしい白。繊維の模様を白く浮き出させた無色透明。 出汁をいっぱいに吸い込んだ飴色。 いずれも冬の凛とした空気に良く似合う。 昆布や鰹節のうま味との相性。白味噌や酒粕とは出会いもの。牛乳やバターともピッタリ。 鶏肉、えび、牡蠣、淡白な白身の魚にも良い。 茎や葉も、甘味とエグ味の対比が堪らない。糠床で漬けたり、ごま油で炒めたり。 炊き立ての白飯に乗せれば、何杯でも「ごはんがススム」。ああ、うまかいな、蕪。


● ● ● ● 小蕪、葉かぶに、大きなカブ● ● ● ●

那の生家東京では、蕪といえば「金町小蕪」。緻密で滑らかな肉質、柔らかく甘い。 油揚げと一緒に葉や茎も入れての味噌汁は冬の東京の朝の逸品。 西に向かうと漬物がうまい。聖護院、日野菜、酸茎菜。千枚漬けや奈良漬けにはもってこい。 四日市在住の折り、奈良・京都への遠出には、必ず途中で鮮やかな赤首の「日野菜の桜漬け」を齧った。 長いの、丸いの、とがったの。白いの、赤いの、緑の。ちさいの、おきいの。 永年、日本各地の風土で培われた愛すべき野菜。 「金町小蕪」がないので、ここ広島では、「天王寺蕪」を求める。 大根のようにすりおろして、絞り汁を飲んでみる。なんともいえない上品な香気と甘さ。 胃袋に染み渡る真冬の蕪のうまさだ。 そういえば、野沢菜も蕪の一種。根部より葉を食べる「葉蕪」の王様。 それにしても、信州で食べる野沢菜はなんであんなに美味しいのだろう。 さあて、今日はどうして食べようか、あれこれ悩む、うまいかな、蕪。



・・家庭でもほんとにおいしい、蕪アレコレ・・


蕪蒸し(カブラムシ)は日本を代表する和の名皿。 アツアツの甘鯛にふわっとかかった卸し蕪は、もんどりうって、気絶するうまさだ。 しかし、家庭でやるのは仰々しいし、照れくさい。白身の魚も高価ときている。 だから、「蕪蒸しシュウマイ」を楽しく作って、愉快に食べちゃう。

「蕪蒸しシュウマイ」

皮を厚くむき擂り卸した蕪の水気を切る。(竹のざるや巻き簾を使う) 白身の魚(鱈など)や小海老をたたいて混ぜる。鶏のひき肉を入れると風味が出て更においしい。 つなぎに長芋を卸して入れ、水気が多ければ片栗粉を混ぜる。 シュウマイの皮(市販のワンタンの皮)で具入りの卸し蕪を包み蒸し器で蒸す。 「明石焼」のだし程度の出汁を銘々に用意し、蒸したてをつけて食べる。 水分が多く、うまくシュウマイにならない場合は、気持ちを切り替えて 用意の出汁を用いて、ワンタンにするか茶碗蒸にする。

 


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蕪の外皮と身の間には「ショウジ」と呼ばれる繊維質の部分がある。 このゴワゴワ感と身の柔らかさとのコントラストが強すぎるから、 糠漬けや味噌汁を除く、大半の料理では、これを取り除いた方がおいしい。 しかし、皮は皮で、独特の食感があり、うまい。 旬の蕪の皮は、そのままパキパキ食べても驚くほど甘い。 これを捨てる手はない、「蕪の皮の辛酢漬け」

「蕪の皮の辛酢漬け」 蕪の皮は塩をして1時間、しんなりする。 少量の酒、砂糖、酢で和え冷蔵庫に置く。 切り昆布、鷹の爪を加えて、味が馴染んだら出来上がり。


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蕪を丸ごと1個ラジカルにかぶりつきたい。 これには「風呂吹き」が一番だ。乳製品との相性抜群だから、 敷き味噌には生クリーム、上からはバターをかける。 しかも、オーブンで焼くのだから「風呂吹き」ならぬ「サウナ吹き」か? うっすらと付いた焼色が堪らない「蕪の風呂吹きグラッセ」

「蕪の風呂吹きグラッセ」 蕪は皮を厚めにむき、薄い出汁で固めに下ゆで。 白味噌に酒と生クリームを混ぜ敷き味噌を作る。 出汁が染みた蕪は頃合の食感が残るようにオーブンで焼く。 敷き味噌に蕪、上にバターを載せ、仕上げに強火でカッと焼いてアツアツを齧る。


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旦那の居場所、今回は「蕪(かぶ)」のおいしさについてでした。 蕪の原産地は、地中海、中近東、西アジア周辺。 日本には東洋種が中国から西日本へ、シベリア・朝鮮半島を経て西洋種が東日本へ土着した。 東洋種と西洋種は関が原あたりを境にするという。東京から西日本へ移り住んで、一番驚いたのは、 蕪がでかいことだった。「蕪」は古い文献にも登場し、少々多く食べても胃にやさしく、 穀類の補いとして、畑の常備菜と考えられていた。 大根と同じアブラナ科で微量成分も大根とほぼ同じ、ビタミンC・A、カルシウム、鉄に富み、 加水分解酵素アミラーゼを多く含む。 仕事柄、昼は必ず外食だが、定食につきもののお新香は、最近ではほぼ100%、たくあんやきゅうりの細切りを、ロングライフパックにした奴が登場する。あれだけはどうしても食べる気にならず残してしまう。 たまさか、これは自家製だなとわかる蕪の糠漬けなんぞにお目にかかると、毎度その店に 足が向いてしまうというから、ほんと蕪の魅力とは不思議なものです。
(99年2月 copywright hiroharu motohashi)
● 今が旬のバックナンバー礼讃:第8回「長芋」(98.12) 第9回「鮭(99.1) 第10回「大根」(99.2)
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