旦那の居場所第29回 冬の鍋礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています

鍋にまつわる思い出は枚挙に暇がない。学生時代、柔道部の合宿所で、他部の友人を 招いて行う鍋大会。時に相撲部に伝わる特製ちゃんこ等、客人から教えられた味も多い。 蓋を開けると立ち上る湯気。冬の鍋には日本人に生まれて良かった。と唸らせる滋味がある。

● ● ● ●冬の鍋うまさの秘密 ● ● ● ●

寒さと共に素材が本当にうまくなる時期、気の合う仲間と鍋を囲めば、いつしか「おしくらまんじゅう」をしている 様なしみじとした連帯感が広がる。 梅が香り、桜がほころぶ季節になっても、しんしんと堪える花冷えの夜には、これまた鍋が良く似合う。 新しい季節の訪れを感じさせる、命の息吹を鍋にたっぷり放り込めば、眠っていた身体が目覚めるほどの 香りとほろ苦みを楽しめる。 初対面でも「それでは自家箸で。」なんて一言断れば、もう気分は親戚同然だし。

家族団らんを絵に撮れば、もう鍋を囲む姿しか想像できない。 「すきやき」「しゃぶしゃぶ」でなく、「ちゃんこ鍋」や「ねぎま鍋」などつつく男女を見たら、 差しつ差されつ、それはもう「疑わしきこと、羨ましきこと、甚だしい」雰囲気となる。 全国津々浦々、数多ある鍋の中で、記憶に残る鍋のうまさ。それは必ず、一緒につついた誰かの 笑顔と重なる忘れられない、懐かしい懐かしい舌の思い出だ。

● ● ● ●冬が嬉しい、春が待ち遠しい、うまい鍋たち ● ● ● ●

6年振りに東京で過ごす冬。人形町のねぎま鍋、よし田のかも鍋、新三浦の水炊き ちゃんこ川崎のちゃんこ鍋、神田のあんこう鍋・・。財布と相談すれば、とても一冬では回りきれない。 その上全国各地でうまい鍋が僕を呼んでいる。ふぐ、かき、アラ、ぶり、鮭、カニ、鯨、・・はてさて、どうしたものか。 人生先は長いから、今年はいけるところまでで、まあ良いか。 初春の素材もまた楽しみだ。菜の花、ふきのとう、蕗、せり、みつば。変哲もない寄せ鍋を彩る春の香り達。 さっと火を通す度に鼻孔から春を感じる幸せ。美しい日本の季節に、彩りを添えてくれる、うまい、うまい鍋たち。

■■■ 家庭でもほんとにおいしい、鍋料理アレコレ ■■■

中学の修学旅行で京都に行った。泊まったホテル「大富」で食べた鍋のうまさは今でも舌に焼き付いている。 あまりのうまさに仲居さんに尋ねると、「へえ、大富鍋いいますねん。」「ピーナッツをあたってだしに入れるんどす。」と来たから驚き。 何度か嗜好錯誤して行き着いたあの時の感動。ピーナッツバターを使って再現した「京都で出会ったピーナッツ鍋」 ピーナッツバターは「スキッピー」に限る。「クリーミータイプ」ならそのまま。 「チャンクタイプ」なら味噌漉しで固形のピーナッツを除いて溶かし混む。 騙されたと思ってお試しを。よくある、甘いタイプのピーナッツバターは使わないで下さい。 また、独特の風味が野菜の滋味を消すので、ごまペーストでは代用できません。


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だしは、水だしのこんぶだしに「ほんだし」「瀬戸のほんじお」濃口・薄口醤油で味付け。 冬の野菜の滋味を活かす為、白菜の芯、ねぎの青いところ等を入れてくたくた煮る。 骨付きの鶏肉等や干し椎茸は予め入れてうま味を引き出す。 だし野菜を捨て、改めて白菜の固いところを入れて透き通るまで煮る。 だしにピーナッツバターを溶かし込んだら味が一変。なんといも言えない味になる。 その他の具は、豆腐、京菜を必須にして、どんなものでもよく合う。 餅や生麩は最高。最後はうどんを入れても絶品。


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シンプルな具、シンプルなだしの組み合わせが、絶叫する程うまい鍋になる。 そんな鍋が一家に一つはあるだろう。豚肉のスライスとほうれん草だけをポン酢で食べる「常夜鍋」もその一つ。 鶏とタコのつくね団子をうどんのだしで食べるシンプル鍋も絶品だ。「鶏タコ鍋」のうまさにいつも脱帽。


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だしは、「ほんだし」、「瀬戸のほんじお」、みりん、薄口醤油。 関西風のうどんだしを作って欲しい。(味の素kkの関西風うどんおでんだし「どんでん」ならその他の調味料は不要) 鶏肉のミンチに、細かく刻んだタコと紅生姜を入れ、少量のしょうが汁、たっぷりの水で混ぜる。 スプーンで丸めて次々と鍋の中へ。煮えるのが待ちきれない程のうまさだから、喧嘩にならないようご用心。 薬味代わりにせりやみつばをたっぷり入れたら、また最高。最後の雑炊が、これまた最高。


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牡蠣、ベーコン、豚バラ、生鮭、キャベツ、これを楽しむにこんな鍋は如何。 こってりそうだが、こってりではない。身体に優しい、優しいお鍋。 「牛乳チーズ鍋」

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「コンソメ」などで味付けしただしで、キャベツを煮る。 牛乳をだしの1/3程度入れて鍋大会開始。ベーコン、豚バラ、牡蠣等々。 バッチ毎に溶けるチーズをふりかけて。 最後は生米を入れて目の前でリゾットが楽しい。



旦那の居場所、今回は「冬の鍋」のおいしさについてでした。 だしのうま味を存分に吸った白菜や生麩。口に入れるとぴゅっと飛び出す熱々のねぎの汁。湯気と共に飛び込む春菊の香り。歯応えを残して楽しむキノコ達。 鍋の良さは、自分の好きな素材を自分の好きな加熱加減で食べられること。 出来上がりを考えて投入する順番を決め、好みの薬味で食べる。だから不思議と一鍋に一人、鍋奉行が誕生する。

今日は鍋!と決めた時から、鍋に味をつけるか、水炊きにして手元のゆずポン酢で食べるか、迷いに迷う。もちろん、鍋の種類でお酒の種類や飲み方も変わるから、どんな酒で楽しもうか、またまた、迷いに迷う。 最後にだしに投入するのは、ご飯か麺か、これまた、迷いに迷う。 鍋の翌朝、土鍋に残り汁等あろうものなら、朝からまた一献しながら、一鍋始めてしまうというから、 ホント「冬の鍋」の魅力とは不思議なものです。
(2001年3月 copywright hiroharu motohashi)

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