旦那の居場所第35回 お粥(かゆ)礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています


アジアの朝にはお粥が良く似合う。朝食の迎え方も国それぞれなら、お粥の個性もそれぞれ。二十歳の頃、柔道の遠征で訪ねた台湾。台北の寄宿舎で食べた素朴なお粥のうまさは今も脳裏に焼き付いている。一口食めば、口中に清清しい甘さが広がり、胃腸の疲れを癒し、身体全体を整えてくれるようなやさしさを味わえる。お粥の朝食には、米を主食としてきた民族の秘めたるパワーの源泉があるような気がする。


● ● ● ●いろいろなお粥たち● ● ● ●


喧騒とともに明ける香港の朝は、「粥麺専家」なる粥専門店の前で出勤前にお粥をすする人々の光景で始まる。日本の粥とは異質な炊き上がり。米は、水と油を吸い込み完全に原型をとどめぬまでの状態になっている。米のでんぷん、だしの水分、そして油が乳化しているとも思えるほどの渾然一体感だ。油条(揚げパン)や香草(パクチー)をはじめ好き好きのトッピングは楽しいし、具材もピータン、牛の内臓、魚ボールなどバラエティー豊か。具のアクセントは味付けにはとどまらず、食感や香りまで幅広い奥行きを見せ付けてくれる。

土鍋の蓋を開けると立ち込める湯気。冬の冴え渡った空気にさっと暖かさが広がる。日本のお粥ほど冬の静けさに似合う食べ物はない。こちらはしっとりとした味わいの質素で素朴なお粥。水の良さ、昆布のだし、白粥が基本のやさしい味だ。京都では「おかいさん」として、朝に限らずポピュラーな食べ物。白粥をベースに梅粥、鮭粥、茶粥、小豆粥、芋粥、根こんぶ粥など、おいしいお粥を挙げればきりが無い。生米からじっくり炊き上げる「お粥」は「雑炊」「おじや」や「お茶漬け」にはない素朴な魅力を持っている。

● ● ● ●七草かゆの思い出● ● ● ●


七草かゆは子供時分の私にとって最も辛いイベントの一つだった。さしてうまくもないものを朝から食べさせられることも辛いが、この日を境に正月気分は消えうせ、3学期のバタバタに飲み込まれていくことになるからだった。「せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ、これや七草」母親に教えてもらった春の七草。こうした生活の知識の伝承者は決まって我が家では母親だった。

■■■ 家庭でもほんとにおいしい、お粥あれこれ ■■■

中国粥のうまさの秘訣は、第一にだしのうまさ。干海老や干貝柱、干椎茸など、アミノ酸豊富な乾物の旨味や豚肉、鶏肉などをベースとした舌に嬉しいだし。グルタミン酸をベースに鶏のイノシン酸、椎茸のグアニル酸、貝柱のコハク酸。うま味の相乗効果でとてつもないうまさのだしが出来上がる。そして、第二に米の食感。花の咲いたようなふわっとした状態が目標だ。家庭でも簡単にできる「滋味あふれるダシの粥」。鶏肉のうま味と白菜の甘味をたっぷり吸い込んだ極上の粥。疲れがひどい時、身体が弱っている時、目が醒めない休日の朝などは最適だ。ただし、だし取りには手間がかかるので、朝食に食べるためには前の晩にだしだけは作っておくこと。
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たっぷりの水を火にかけ、鶏もも肉一枚、しょうが2~3片、干椎茸、あれば干貝柱をことこと茹でる。鶏肉は柔らかくなるまで煮るが、肉にまだうま味が残っているうちに引き揚げて酒。醤油に漬け込んでおく。
次に、だしに白菜(1/4株程度)をたっぷり入れ、煮溶けるくらいまで煮込む。米はよく洗い、完全に水気を切り、ゴマ油とまぜておく。この油がやがて加熱することで米を柔らかく内側から破壊し花が咲くような食感に仕上げてくれる。
具材をすべて引き揚げただしに、ゴマ油を吸わせた米を入れ、はじめは強火、煮立ってからは吹きこぼれない程度の中火から弱火にしてコトコト炊いていく。
最後に塩で味を調える。だし材料の鶏肉や椎茸、白菜はトッピングとして食べてしまおう。


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お粥と一緒に炊くと、芋や豆は殊のほかおいしく炊ける。粘度の高い水分が熱媒体となるため、火の通りが均一でやさしくなり、芋も豆もほっくりと仕上がる。表面も乾燥しないために、色艶も素晴らしい。そして、なんと言っても、芋や豆の甘さが米とは相性抜群。芋粥なんてちょっと古臭い感じだけど、実はとってもうまいもの。一風変わった芋がゆなどお試しあれ。「さつま芋のミルク粥」

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米はよく洗い一晩ひたひたの牛乳につけておく。
翌朝、水・牛乳を足して米を炊いていく。煮立ったら火を弱め、よく洗ったさつま芋を皮ごと投入。
水と牛乳の比率は5:1程度。コンソメとバターを入れて味付けをしたら5分程度かき混ぜて完成。
米から出るトロミのためか、牛乳とは思えない程とてもクリーミーな仕上がりになる。


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お粥と黒胡椒の相性はとっても良い。また、九州でポピュラーな柚子胡椒との相性も抜群だ。お酒をたっぷりと使った白粥に、ピリッと辛いシンプルな日本の朝粥は如何。「美酒粥 柚子胡椒風味」

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たっぷりのお酒に、研いで水気を切った米を入れて、じっくりお酒を吸わせておく。
酒の3倍程度の水を足して、強火にかけ沸騰したら火を弱める。お酒が入っているので最初は蓋を開けたままで炊いていく。
アルコールがすっかり飛んだら蓋をして弱火でコトコト。最後に塩だけで味を調える。酒のかどを取ってまろやかにするために、 マグネシウム、カリウムを多く含むミネラル塩を使いたい。カリウムの含有率からすると「瀬戸のほんじお」がお勧め。
黒胡椒、柚子胡椒を好みで粥に入れかき混ぜて食べる。


旦那の居場所、今回は「お粥(かゆ)」のおいしさについてでした。お腹をこわした時にツキモノのお粥ですが、日常からお粥を作って食べる食習慣というのも大変良いものです。 日本では京都以外にはそうした習慣は少ないようですが、米を主食とする他国ではポピュラーです。粒が完全に壊れているお粥は白飯より消化吸収が良く、同じ分量の生米でも、はるかに満腹感があるわけです。

今から15年程前、体重が75kgを超えて緊急ダイエット、10ヶ月で8kg程減量しましたが、 この時の施策は「朝食にお粥」というものでした。さて、今朝も炊き立ての白粥を前にして、今日のトッピングは何にしようかなと一思案。醤油を垂らした焼き鮭、梅ぼし、ゆかり、こんぶの佃煮、のりと山葵に・・・なんて考えていると、毎朝でも良いからお粥が食べたくなってしまうというからホント「お粥(かゆ)」の魅力とは不思議なものです。
(01年12月 copywright hiroharu motohashi)

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