|
椎茸が食せるようになったのは、中学に入ってからだ。 それ以前は、なんとも苦手な食べ物の一つだった。
スライスした奴が八宝菜、野菜スープなどに入っていたら、 取り除くのに一苦労したモノだ。 何が苦手だったかといえば、1にスライスした時の見た目。
片側は黒の表皮があり、片側は無数のヒダヒダがあり、顕微鏡で覗いた 微生物の様な形をしている。 それから、あの食感。たいていは、炒め煮になっているので、
「ニョロニュル」という感じ。 胃袋の中で、あのヒダヒダが動き出し、ニョロニョロニュルニュルと 自由に身体中を駈けめぐる。そんな連想をふくらませた。
食べれるようになったキッカケは、丸のままの椎茸を焼いて がぶりと食べた時からだ。見慣れた形、歯切れよい食感、 ヒダヒダにたまったおいしいおつゆ、それからというもの、椎茸が好きで好きで堪らない。
● ● ● ●椎茸のうまさの秘密
● ● ● ●
椎茸のうまさを一番堪能できるのは、椎茸釜飯に他ならない。
味付けした干し椎茸のスライスを山盛りにして。 炊きたての釜の蓋を取るなり、ぷーんと良いにおいが立ちこめる。 椎茸のうまさの神髄は、あの香り、そのものだ。
味蕾にまで攻め寄せて来る香気。特に香りが強いのは干し椎茸。 風味の正体はレンチオニンにという物質。「干す」ことでレンチニン酸が分解され、この成分が生成されるという。
一方、生椎茸には、この香りに加え、野生の雑木林を思わせる野趣に飛んだ風味を持っている。 あまり洗わないで使いたい。 味はというと、噛むほどに口中に広がるうま味。椎茸のうま味はグアニル酸というアミノ酸。
こんぶのうま味やかつおぶしのうま味と相まって、飛躍的にうま味が増す。 ご存知「ハイミー」という調味料は、この昆布、かつおぶし、椎茸のうま味を複合したうま味だし。
椎茸のうま味は、煮物や麺類などのだしに最適。コクと深みを増す最高の調味料だ。 甘味との相性もよく、やさしく柔らかなうま味。塩かど、酢かどを取り、隠し味に使えば
個性の強い素材や調味料の独走を鎮める調停者になる。 食感はコレ不思議。「生」と「干し」では大きく違う。 千変万化なのは「生」の食感、加熱の具合でシャッキからニョロニュルまで楽しめる。
ただし、どちらにも共通なのは、肉厚がうまい、ということ。 傘があまり開いていない、肉厚のモノを選びたい。 「生椎茸」は食感を楽しみ、「干し椎茸」は香りと深い味わいを愛でたい。
● ● ● ●干し椎茸の香りを
● ● ● ●
日本産の椎茸は春と秋が旬。しかし、原木栽培でなく、ハウスや、おがくず栽培のものは一年中手に入る。
ピンきりなのは「干し椎茸」。傘の開き具合、肉の厚さ、傘の色や亀裂の具合で価格も違う。 この違いは、栽培の環境や収穫の時期によって異なり、手塩にかけて育てた努力の結晶だ。
当家では「冬茹(どんこ)」は高くて使えないので、なるべく肉厚な「香茹(こうこ)」クラスを求めている。 肝心なのは使い方。戻す前にもう一度日光に当てる。日向臭さを取り、ビタミンDも増える。
戻しは水でゆっくりと。最低5時間。レンチオニンを抽出するまでにこの程度の時間が必要だ。 お湯で戻すと苦みが出るので水を使い、柔らかくならなければ砂糖を入れると早く戻る。
中国料理のプロはここから更に蒸していくが、家庭ではこれで充分。 綺麗に澄んだ戻し汁に鼻孔を広げて、恍惚の表情で酔いしれる旦那の姿を女将もまだ見たことがない。
|