居場所 4k

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」
これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。


盛り塩、打ち水、木の格子。敷石、玉砂利、ししおどし。引き戸をあければカウンター。 ここは、住宅街の駅前・・はずれ。「お帰りなさい」なんて野暮な言葉はかけないで。 料理の手は休めず、「いらっしゃい」やさしい目だけが笑ってる。居酒屋のおやじを夢見て、 今日も食を愛で、食を楽しむ・・ダンナの居場所。
その第25回は・・・・

椎茸礼賛

茸が食せるようになったのは、中学に入ってからだ。 それ以前は、なんとも苦手な食べ物の一つだった。 スライスした奴が八宝菜、野菜スープなどに入っていたら、 取り除くのに一苦労したモノだ。 何が苦手だったかといえば、1にスライスした時の見た目。 片側は黒の表皮があり、片側は無数のヒダヒダがあり、顕微鏡で覗いた 微生物の様な形をしている。 それから、あの食感。たいていは、炒め煮になっているので、 「ニョロニュル」という感じ。 胃袋の中で、あのヒダヒダが動き出し、ニョロニョロニュルニュルと 自由に身体中を駈けめぐる。そんな連想をふくらませた。 食べれるようになったキッカケは、丸のままの椎茸を焼いて がぶりと食べた時からだ。見慣れた形、歯切れよい食感、 ヒダヒダにたまったおいしいおつゆ、それからというもの、椎茸が好きで好きで堪らない。

● ● ● ●椎茸のうまさの秘密 ● ● ● ●

茸のうまさを一番堪能できるのは、椎茸釜飯に他ならない。 味付けした干し椎茸のスライスを山盛りにして。 炊きたての釜の蓋を取るなり、ぷーんと良いにおいが立ちこめる。 椎茸のうまさの神髄は、あの香り、そのものだ。 味蕾にまで攻め寄せて来る香気。特に香りが強いのは干し椎茸。 風味の正体はレンチオニンにという物質。「干す」ことでレンチニン酸が分解され、この成分が生成されるという。 一方、生椎茸には、この香りに加え、野生の雑木林を思わせる野趣に飛んだ風味を持っている。 あまり洗わないで使いたい。 味はというと、噛むほどに口中に広がるうま味。椎茸のうま味はグアニル酸というアミノ酸。 こんぶのうま味やかつおぶしのうま味と相まって、飛躍的にうま味が増す。 ご存知「ハイミー」という調味料は、この昆布、かつおぶし、椎茸のうま味を複合したうま味だし。 椎茸のうま味は、煮物や麺類などのだしに最適。コクと深みを増す最高の調味料だ。 甘味との相性もよく、やさしく柔らかなうま味。塩かど、酢かどを取り、隠し味に使えば 個性の強い素材や調味料の独走を鎮める調停者になる。 食感はコレ不思議。「生」と「干し」では大きく違う。 千変万化なのは「生」の食感、加熱の具合でシャッキからニョロニュルまで楽しめる。 ただし、どちらにも共通なのは、肉厚がうまい、ということ。 傘があまり開いていない、肉厚のモノを選びたい。 「生椎茸」は食感を楽しみ、「干し椎茸」は香りと深い味わいを愛でたい。

● ● ● ●干し椎茸の香りを ● ● ● ●

本産の椎茸は春と秋が旬。しかし、原木栽培でなく、ハウスや、おがくず栽培のものは一年中手に入る。 ピンきりなのは「干し椎茸」。傘の開き具合、肉の厚さ、傘の色や亀裂の具合で価格も違う。 この違いは、栽培の環境や収穫の時期によって異なり、手塩にかけて育てた努力の結晶だ。 当家では「冬茹(どんこ)」は高くて使えないので、なるべく肉厚な「香茹(こうこ)」クラスを求めている。 肝心なのは使い方。戻す前にもう一度日光に当てる。日向臭さを取り、ビタミンDも増える。 戻しは水でゆっくりと。最低5時間。レンチオニンを抽出するまでにこの程度の時間が必要だ。 お湯で戻すと苦みが出るので水を使い、柔らかくならなければ砂糖を入れると早く戻る。 中国料理のプロはここから更に蒸していくが、家庭ではこれで充分。 綺麗に澄んだ戻し汁に鼻孔を広げて、恍惚の表情で酔いしれる旦那の姿を女将もまだ見たことがない。



・・家庭でもほんとにおいしい、椎茸料理アレコレ・・

焼きたての生の椎茸に醤油を垂らしてガブリとやった時から、椎茸好きになった。 しかし、この食べ方の欠点は椎茸の表面が乾燥する事。 そこでオリーブ油でマリネした「椎茸のオーブン焼き」 イタリアンに椎茸丸ごとのおいしさを楽しもう。

「椎茸のオーブン焼き」

玉葱をざくざくと粗みじん。椎茸の軸とアスパラは小口に切る。 これをオリーブオイルでマリネし塩こしょう。 椎茸の傘は水気を切り、これもオリーブオイルで表面をコーティング。 オーブン皿に椎茸を並べ傘の中に詰め物のマリネを乗せる。 後はオーブンで焼くだけ。余熱済みなら、250度で8分程度。 好みで焼きたての傘にバルサミコを垂らしても良い。


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干し椎茸の煮物は本当に美味しい。 汁気を切って、てんぷらにすると、とてつもなく、うまい。 余りのお節でも良いが、わざわざ作るだけの価値がある。 秋の行楽弁当の顔ぶれには最高の「煮付け椎茸のてんぷら」

「煮付け椎茸のてんぷら」

干し椎茸を水で戻して5時間、戻し汁を加えながら、酒、みりん、醤油、砂糖で煮付ける。 汁気を切って、てんぷらにする。当然だが天つゆなどなくて良い。 パン粉を付けてフライも良いし、片栗粉をまぶして唐揚げでも良い。


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一口大に切ったうまい素材のオンパレード。 味の決め手は我らが「干し椎茸」。 ワインに良し。お酒に良し。紹興酒にも良し。 冷めてもうまいので、オードブルにも良し。 前の日に作って冷たいまま食べて良し。 良い良いずくめの「牛肉と椎茸のうま煮」

「牛肉と椎茸のうま煮」


干し椎茸を戻して扇形に1/4カット。これと同じくの三角大で大根・牛肉をカット。 牛肉はバラ(こってり派)かもも(あっさり派)。ごぼうはやや小さめの乱切り。 牛肉は酒、塩、胡椒でよく揉んで片栗粉をまぶす。 たっぷりの油で牛肉、ごぼう、大根、しいたけを炒め、酒、みりん、戻し汁で煮込む。 砂糖、醤油で味を調えながら、柔らかくなったら出来上がり。 仕上げにオイスターソースやごま油を垂らしても良い。 汁気がなくなるまで、煮詰めると味がしみ込み、照りが出る。

旦那の居場所、今回は「椎茸(しいたけ)」のおいしさについてでした。 椎茸は免疫機能を強くするレンチナンという多糖類を含んだ食品。 旦那は以前、椎茸からこの制癌剤を作る医薬工場に勤務していたことがある。 何トンもの椎茸から取れるレンチナンはごくごく微量。前処理工場では昼夜、椎茸の香りがしていた。 また、エリタデニンという物質がコレステロールを下げることも知られており、食物繊維、ビタミンDも豊富。 と来れば、この椎茸というキノコ、おいしいだけでなく、実は有り難いキノコなのです。 干し椎茸といえば中国料理。乾物同士、あわびやふかひれ、なまこ等との相性も抜群。 しかし、どんなに高級な素材と一緒に使っても、もしかしたら、これは、椎茸料理じゃないかなって思えるくらい、 主役のうまさを引き立てつつ、主役を圧倒する程 「うまい!」というからほんと椎茸の魅力とは不思議なものです。
(2000年9月 copywright hiroharu motohashi)

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