旦那の居場所第30回 蕗礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています

春の野山で、土筆(つくし)や野芹を採った思い出。 「君がため 春の野に出て若菜摘む・・」の歌が頭をよぎる季節。 冴え冴えとした日差しの中、ピンと張りつめたまだ寒い空気の中で、 生まれたばかりの若い力がそっと土の中から顔を出す。 「ふきのとう」という響きにも、日本の春を想わせる独特の語感がある。

● ● ● ●春の山菜の魅力 ● ● ● ●


我が家では、春の香り達を楽しむための山菜てんぷらパーティーがこの季節の人気。 下ごしらえの段から、鼻孔は山菜達に支配され、揚げたてを口に放り込めば、鼻から口から、春の香りを満喫できる。 春の山菜達、それは、冬の間に蓄えていた力を一気に爆発させる若い喘ぎのようだ。 運動もせずに、冬眠モードに入っていた怠惰な身体を、春の香りで呼び覚ましてくれる。 皮下に脂肪を蓄えて、節約モードで貯め込んでいた体内の老廃物を春の苦みで追い出してくれる。 そんな力を持った春の山菜、毎年、刻み続ける大切な味覚と嗅覚の記憶だ。

● ● ● ●蕗うまさの秘密 ● ● ● ●

香りと苦みは言うまでもない。蕗のうまさはそれに加えて、食感と彩りだ。 澄み切っているのに、渋みのある、薄緑色。目にも優しい、なんとも日本的な色彩だ。 「筋の通った」茎を噛みしめる時の絶妙なテクスチャー。一本一本の繊維の管から香りと苦みが舌に押し寄せる。 水蕗は先に茹でて皮を剥く。縦にツーと剥くのが面白く、4歳の娘は必ず手伝ってくれる。

皮を剥きながら、時々の手指を鼻に近づけては「くちゃーい」と顔をしかめる。 剥いた半分は、青くきれいなまま、薄味をつける。酒、みりんに塩を加えて煮立てものに、つけておく。 残りの半分は、酒、みりん、濃口醤油、さとうで辛煮にする。 薄煮は漬け物やサラダのような感覚でむしゃむしゃと、たっぷり食べる。 辛煮はお茶請け日本酒のつまみ、ごはんの友にぴったりだ。
「蕗の薹(ふきのとう)」も忘れてはいけない。これは、蕗の花茎で、香りとほろ苦さにおいて 春の訪れを感じさせる抜群の素材だ。

■■■ 家庭でもほんとにおいしい、蕗料理アレコレ・ ■■■
実は蕗は砂糖との相性も抜群。砂糖漬けもおいしい。 「蕗餅」は子供も楽しく食べられる料理。 ホットプレートがあれば、食卓で作るも良し。

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蕗の薄煮は水分を切ってグラニュー糖をまぶす。 白玉粉を水でゆるめに溶く。 熱したフライパンに薄く油をしき、蕗をいかだに並べ、溶いた白玉粉でとじる様に焼く。 おやつなら、蕗の他に、具に、柚子味噌やつぶあんなどを使っても面白い。


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蕗の葉がまたうまい。辛煮にしてごはんにかけて食べるのは最高。 ごま油との相性が良いから、ナムルにしてもまたうまい! 「蕗の葉のナムル」


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蕗の葉は塩水で茹でて水気を切り、水に浸しておく。 えぐ味を確かめながら2~3度水をかえ、あくを抜く。 水気を良く絞り、おろしにんにく、擂りごま、ごま油、塩、砂糖を入れて、よく和える。 手でよく揉み込むようにかき混ぜる。すっかり馴染んで、渾然一体、乳化したのか?と思うくらいまで、かき混ぜる。


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蕗に負けず劣らず蕗の薹のおいしさも堪らない。 てんぷらにしてもこたえられないうまさだが、蕗の薹味噌にしてもいいし、 甘酢に漬けてもおいしい。本当に香りを楽しみたいなら、薄味の「ころがし煮」がいい。

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蕗の薹を1/2に切り、塩を入れた熱湯で5~10分湯がく。 たっぷりのお湯で一気に熱を通す。加熱ムラがあると、色が黒くなる。 あくが強い場合は、米のとぎ汁を使っても良い。 煮上がったらざるにとり、水に放しておく。何度か水をかえてあくを抜く。 (てんぷら以外の場合は、ここまでが共通の下拵え) 水気を切った蕗の薹をさっと油で炒め、みりん、さとう、薄口醤油でころがし煮にする。 薄味で、本来の香りと味を楽しみたい。

下越しらえした蕗の薹は油で炒めてから、白和えや甘酢漬けにしてもうまいし、刻んで蕗の薹味噌にしても良い。 味噌には少量の練りごまやピーナッツバターを入れるとおいしい。蕗の薹は、油、酢、味噌、砂糖、ごまやくるみ、ピーナッツ等との相性が良いようだ。


旦那の居場所、今回は「蕗(ふき)」のおいしさについてでした。 蕗は数少ない、日本原産の野菜。水分ばかりで栄養はなさそうですが、こう見えても、実はカロチンが豊富な優良な素材。 それより何より、あのほろ苦さが、身体に活を入れてくれる様な気がします。

摘んできた蕗を薄煮、辛煮にして、どっさりと盛り鉢に山高に盛って、日に日に和らいでくる空気の中で、縁側でちびちび酒を呑みながらつまむ。 他には何もなくても、きっと「日本に生まれて良かった~」なんて思うんだろうなあ。そんな暮らしまで夢見てしまうというから、ホント「蕗」の魅力とは不思議なものです。
(2001年4月 copywright hiroharu motohashi)

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