旦那の居場所第46回 「クレソン」礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています


ク レソンとの出会いは小学生の頃、デパートの最上階のレストラン街でハンバーグやポークソティーを注文すると 何やら見慣れない葉っぱがお皿にのって現れた。 ただの飾りに違いないと思いつつ一齧りしてみると、予想的中、苦さが口中に広がり、やっぱり食べられる葉っぱじゃあなかったと思ったものだ。

ところが、いつしかあのピリッとした苦さがたまらく好きになり、生でバリバリ食べるようになった。 それにしても、クレソンとはなかなかハイカラな名前、 スペルはCresson、すなわち仏語、だからマニラにいた時にはクレソンでは通じなかった。 意外にも英語ではウオータークレス(WATERCRESS)、あのかわいい丸みを帯びた葉を想うと、やはり名前は・・・、クレソンのほうがぴったりだ。

● ● ● ● 野生のクレソン ● ● ● ●

ク レソンはアブラナ科オランダガラシ属の多年草、浅い清流に茂る。もともとはヨーロッパに広く自生していたが、今では日本全土に帰化している。 水中では縦横無尽に根が張り、空洞の茎が四方八方に入り乱れる。 田舎のきれいな小川でクレソンを見つけると、思わず摘みあげて口に放り込んでみるや、口中に広がる香りと辛みを楽しむと、 文字通り、これもまた香辛料の一種だと一人で合点する。
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なるほど、肉の臭み消しのために、つけあわせとして供されるようになったのにもうなずける。 水面にたたわわに葉をたたえ、水上に鎮座する姿は、小さいながらもさわやかで力強い。


● ● ● ● クレソンの楽しみ方 ● ● ● ●

たおやかな、というより頼りなげなクレソン、意外にもビタミンA・C、鉄分、カリウムなどが豊富です。だから、肉のつけ合わせとして食するのは なんとも理に適っていると言える。元来は4~5月が旬だから、この時期には栄養価も高まるのかもしれない。 生のまま、サラダで食べるクレソンは、バリバリと噛みしめる歯ごたえと清らかな苦味が最高だ。 「おひたし」も美味い。さっと茹でて水気を切り、めんつゆと「ほんだし」を回しかければ完成だ。これにすりゴマを和えて「ごま和え」としても乙なもの。 手のこんだところでは、茹でてからピュレ状にして「ソース」や「スープ」に使う。肉にも魚にも野菜にも合うから驚きだ。 いずれにしても、値段が高いから、たっぷり使うには少々勇気のいる食材。お買い得品をみつけたら買い込んでしまう。

■■■ ・・ホントにうまい クレソン料理あれこれ・・ ■■■

「野芹とクレソンのバリバリ・トスサラダ」
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野趣には野趣を、香辛野菜には香辛野菜を、というコラボ。フレンチ系のドレッシングも可だが、 ここはあっさり和風のドレッシングで、野菜の辛さと苦さをダイレクトに楽しみたい。 だからドレッシングは手作りしたい。ノンオイルの和風ドレッシングは、酒とみりんを火にかけアルコールを飛ばしたら、 醤油を入れて馴染ませ火を止めて冷蔵庫で冷ます。ここに酢を混ぜて完成。分量は酒1:みりん1:醤油1:酢2の比率。 酸っぱいのがお好みなら酢を増やし、甘めが好きなら砂糖を少々加える。

セリとクレソンはそれぞれ3センチ程度、食べやすい大きさに切り、しっかり水気を切る。 大きめのボールの中で、少量のオリーブオイルを回しかけながら、油が全体に行き渡るようにしっかりトスする。 両手にそれぞれ、スプーンや菜箸を持ち、バレーボールでトスを上げるように葉っぱを持ち上げては落とすを繰り返す。 最小限の油で葉っぱの隅々までしっかりコーティング。これが美味さの秘訣だ。ここまで出来たら食べる直前まで冷蔵庫。 最後にノンオイルの和風ドレッシングをかけて完成。

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「すずきのムニエル クレソンのソース」
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クレソンのソースは肉にも魚にもよく合う。ソースの作り方は簡単。鍋1つとハンドミキサーで5分で仕上がる。 オリーブオイル、顆粒のコンソメ、こしょうを入れた少量の熱湯で刻んだクレソンを茹でたら そのままハンドミキサーでピュレ状にする。最後に少量の生クリームとバターを入れて味を調えるだけ。 塩味の調整だけ最後に、スープではなくソースなので、ややきつめの塩味で。実はこのソース、生のトマトとの相性が抜群です。 水気を拭いた白身の魚に塩、コショウ、にんにくを効かせ微量の小麦粉をまとわせオリーブで両面をこんがり焼く。 魚を皿に盛ったらクレソンのソースをかける。鍋に残った油にレモン汁を加えて混ぜ、これをお皿に余白に散らしても良いアクセントになる。


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「クレソンの塩スパゲティー」
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シンプルな味付けのパスタとクレソンだけの塩スパゲティー、大人の一品。 クレソンは少々小さめにざく切りして水気を切っておく。アルデンテに茹でたパスタをフライパンに移し、 オリーブオイルと茹で汁を入れて、加熱しながら手早く撹拌、これに少量のおろしにんにく、おろししょうが、「ほんだし」、塩、砂糖を加えて、 またまた手早く混ぜ合わせる。隠し味は少量の「ゆずこしょう」。火を止めクレソンを混ぜたら完成 我が家ではいつもモリンガの出し殻があるのでこれを加えて栄養を補強します。




今回はクレソンのおいしさについてでした。 クレソンは今から130年ほど前にヨーロッパから渡来しました。明治維新後の日本では肉食も始まり、生活の洋風化が上流層から始まった、そんな矢先の頃だったのだと思います。 もともと、苦い春野菜の多い日本の風土ですから、クレソンの味は意外と抵抗なく受け入れられたのかも知れません。「水芥」という字を当てたようですが、なんとも粋な名前でしょうか。

しかし、スーパーの野菜売り場でのクレソンの存在感を見るにつけ、家庭でクレソンを食べる頻度はそう多くはないと思われます。 ハウス栽培で一年中手に入る便利さは良いとして、やはり、あの値段の高さが普及が進まない1つの理由だと感じます。 ほんの1握りの束で高い時には200円以上、セリや三つ葉に比べてもg比では3-4倍はしていると思うのです。

マニラではなんとビニール袋いっぱいで100円以下でした。そんな露地物のクレソンが茂る綺麗な小川が日本中の 山里にもいつか戻ってくる日を心待ちにしつつ、今日も特売のクレソンを期待して野菜売り場をさまようというから、 ホントにクレソンの魅力とは不思議なものです。

2010年4月 本橋 弘治 copyright by Hiroharu Motohashi

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