旦那の居場所第42回 「人参」礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています

ニンジンといえば、いつもニンジン人参目当てに疾走するTV漫画のうさぎを思い出す。小学生の時分、野生のうさぎを小学生時代にうさぎを裏庭で飼ったことがある。警戒心の強いこの野生のうさぎにえさをやるのに苦労した。生のニンジンをそっと金網から差し入れて食べさせる。長いこと小屋の前にしゃがんでは一緒にニンジンをバリバリ食べたものだ。怯えた動物にえさをやる場合は、まずそのえさを自分が食べてみせるに限る。小学生の僕は本気でそう考えていた。

● ● ● ● 人参のうまさの秘密 ● ● ● ●

ニンジンのうまさは、自然で慎ましく、素朴で深い甘さにある。ニンジンの甘さを引き立てるには、オレンジ等の柑橘系の酸味や、牛肉やバターなどの動物性脂肪がうってつけだ。肉質は緻密で、生で食せば「バリバリ」、煮ると「ほっこり」と柔らかくなり、変化が楽しめる。外側は色の濃い肉部、内側が少し白い心部で、心部は硬く味も落ちるような気がする。ニンジンの香りは独特で、これはもう「人参臭さ」としか例えようが無い。土臭さも気になることがある。この臭さが苦手という方は、丸ごとさっと蒸すとかなり和らぐ。蒸すことで、水分と一緒に臭いも飛散するように思う。しかし、ニンジン好きは、この風味が堪らないわけで、生で齧った時の風味は最高だ。


● ● ● ● ニンジンの料理法アレコレ ● ● ● ●

ニンジンの一番好きな食べ方は糠漬けだ。生ニンジンのバリバリッとした食感はそのままに、臭さが抜け甘味が増す。生といえば繊切りにしてそのままドレッシングで和えたり、塩もみして胡麻和えにして食べても美味い。繊切りは、半生程度の過熱加減でコンソメスープの浮き身としてもうまい。植物油脂との相性も良いので、ごま油やオリーブオイルで和えたり、炒めても合う。均一に火が通り味が染みたニンジンも最高で、スープ、シチュー、煮物などじっくり加熱する料理は本当に多い。

橙色の西洋種はオールマイティー、アジア型の紅色の京にんじん(金時)は、やはり煮物などの和食に合うように思う。ペースト状にしてスープやソースにしたり、ドゥーに混ぜてニンジンパンを焼いてもうまい。関西では、人参菜もよく見かける。若いニンジンの葉そのもので、スーパー等でごく普通に手に入る。せり科だけに葉の様子はせりかハーブかという感じ。おひたしやサラダ、和え物等、用途は広い。

● ● ● ● 「ニンジン」の個性と相性 ● ● ● ●

ニンジンは本当に面白い野菜だ。購入頻度は極めて高く、食卓にのぼる回数も多い。しかし悲しいかな、メイン食材にはなり得ない。キャロットスープ、キャロットジュース等、ニンジンメインのメニューもあるが、これとて、決してニンジン100%ではない。ニンジンだけでは風味が強すぎる一方で、味が単調で飽きやすい。洋の東西を問わず面白いことは、複数の素材の間を取り持つ緩衝材として、ニンジンを利用していることだ。風味の点では、でしゃばらない味と自然な甘味で、素材と素材をつなぎ止めたり、つけ合わせとしてメインの料理を引き立てたりする。食感という点でも、「ほっくり」や「しんなり」した柔らかさで全体をまとめる役割を果たしている。

例えば「きんぴらごぼう」も、ニンジンが入ることで、食べやすくなり、ごぼうの食感も引き立つ。炊き込みごはんや散らし寿司、カレーやシチュー、グラッセ等のつけ合わせ等、風味や食感の点で、こうした役割をニンジンが果たしている料理はたくさんあると思う。もう一つ食感がしっくり来ない、色目がさびしい、風味がまとまらない、こんなときはニンジンを加えると満足できる料理に生まれ変わること請け合いだ。奥ゆかしくも、なんと頼りになることか、ああ、うまいかな、ニンジン。


■■■ ・・ホントにうまい人参料理あれこれ・・ ■■■


ニンジンは胡麻との相性が何故か良い。ごまの持つ風味がニンジン独特の臭みを消し、
胡麻の甘味とにんじんの甘味が馴染んでうまさ倍増となる。「ごま人参サラダ」は、酒の肴に、ごはんの友に、栄養バランス完璧の一品。
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ニンジンとレンコンを同じ大きさ、同じ厚さにスライス。レンコンは酢水に放つ。水気を切り、ニンジン、レンコンの順のごま油で炒める。
レンコンはしゃきしゃきに、ニンジンはしんなりするまで火を通す。市販のシャブシャブのたれ(ごまだれ)で和え、黒胡麻を軽くあたりまぶす。
レンコンは予想以上に火の通りが早いし、ニンジンはなかなか柔らかくならない。時間差炒めに自信がなければ別々に炒めて最後に合わせると失敗しない。バランスとして、レンコンよりニンジンを多めに使うとうまい。

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何人か集まり、「さあワインでも抜こうか!」という時に冷蔵庫からさっと食卓へ直行できる楽しいおつまみ。彩りも良し、歯応えも良し、お酒との相性も良し(特に白ワインがお薦め)の「ニンジンのごろっとマリネ」。何よりも簡単だから良い。
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皮を剥いたニンジンを丸ごと歯応えを残す程度に蒸して大胆にカットし、ビニール袋に入れ市販の浅漬けの素につける。(2時間程度で充分)あとは皿に盛り付けるだけ。そのまま食べても良し。ソースやハーブと合わせても良し。
バジルペーストをオリーブオイルで伸ばしたソースなどが組み合わせとしてGOOD!ベビーキャロットで作っても可愛くて楽しい。それでも、簡単だからと手を抜かず、お客様に出す前に味見はちゃんとすること。

 


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ニンジンは牛肉との相性が抜群。肉の甘味やうま味を引き立てる。食感のコントラストも良く、食べて飽きない。また、ブラウン系のソースとの相性もよいから、ビーフシチューやハヤシライスには、やはりニンジンは欠かせない。相性の良いものだけを組み合わせた、まさに「いいとこどり」の「牛うす切り肉のニンジンシチュー」
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ニンジンは丸ごと蒸し、棒状に切る。(または棒状に切ってから電子レンジで加熱)
歯応えを残すようにオリーブオイルでさっと炒める。味付けは胡椒と塩。
牛肉のうす切り(廉価なものでよい)を適当な大きさに切り、塩コショウ、酒(または白ワイン)で揉み、片栗粉をまぶす。
フライパンでオリーブオイル、にんにくを熱し牛肉をさっと炒め取り出しておく。
同じ鍋に少量の水を入れ市販のビーフシチューのルー(缶や粉末のデミソースやハヤシライスのルーでも良い)を溶かし固めのシチューを作る。
シチューに肉を戻して絡めるように和え、皿に牛肉のシチューを盛り、にんじんを大胆に散らせば完成。 (写真のつけ合わせは、カッペリーニを短くちぎり、30秒ほど煮てから、水気を切り、オリーブオイルで炒めたもの。胡椒とバジルの風味を効かせる。バリバリとした食感が後をひく。)


 


旦那の居場所、今回は「人参(にんじん)」のおいしさについてでした。 ニンジンの濃い橙色はカロチン色素の色。この野菜はビタミンAのかたまりだ。ビタミンB類やCも含み、微量栄養素の宝庫といえる。カロチンは脂溶性ビタミンだから油脂と一緒に摂ると効率的にビタミンAが摂取できるという。


この綺麗な橙色ゆえに、ニンジン程飾り切りに使われる野菜は無いだろう。中国料理では、縁起の良い動物に細工されることが多いし、 日本料理では紅葉や桜の花の形に抜かれ、煮物など色の暗い料理に彩りを添える。 フレンチのシェフからニンジンのシャトー剥きを徹底的に教えて頂いたことがある。ペティナイフでラグビーボールのような綺麗な流線型の形にニンジンの面取りをするこの作業。 形の美しさだけではなく、均整の取れたトゥルナージュ(面取り)は、ベストな加熱調理の条件でもあるわけで、 普段何気なく口にしている付け合せにもプロの技が生きていることを実感した。


それにしても「肉じゃが」「筑前煮」「カレーライス」・・。不思議とお袋の味を思わせる料理には、必ずと言っていい程ニンジンが使われている。 今日の弁当のおかずは何かな?なんて蓋を開ければ、お煮しめの中に鎮座する真っ赤な京にんじん。ついつい最後まで食べずに残しておいてしまうというから、ほんと「人参(ニンジン)」の魅力とは不思議なものです。

(02年10月 copywright hiroharu motohashi)

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