旦那の居場所第43回 「ピーマン」礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています


ピーマンのうまさがわかるようになるまでには、人生として少々の時間を要するようだ。しかも、一時期、「その話ピーマン」とか「あの男ピーマン」なんて良くない流行言葉にも使われた。「ピーマンのように中身がない」ことの例え通り、この野菜、中は空洞だ。しかし、侮るなかれ!見てくれと違い、付き合えば付き合うほどに、味のある奴だとわかる、奥の深い野菜なのだ。


● ● ● ● ピーマン 買う勇気 楽しむ勇気 ● ● ● ●

家庭ではどんな料理にピーマンを使うことが多いだろうか。この野菜、何にでも使える常備菜というわけではないようだ。肉詰め、炒め物、チキンライス、てんぷら、用途は比較的限られる。一袋に4~5個入って売られていることが多いが、何に使うか、決めてからでないと手が出しにくい野菜の1つだ。ほのかな苦味と渋味、そして独特の青臭さ。子供が食べられない野菜の代表選手ときている。ピーマン?なんて我が家では買ったことがない!というご家庭もあるのではないか。さあ、今回は敢えてこのピーマンの魅力を掘り下げつつ、思いっきり楽しんでみたい。


● ● ● ● ピーマンの色めく時 ● ● ● ●

あの苦くて青臭いピーマンが燦然と輝き色めき立つ、うまい食べ方を考えたい。僕の最も好きな食べ方は刺身だ。その名も「ピー刺し」。新鮮な奴をさっと洗って種を取り、「アジシオ」をさっと振って食べる。何故か味付けは「アジシオ」に限る。齧りつけばシャキっとした音とともに、口中に青臭いジュースがほとばしる、これが堪らなくうまい。もちろん、さっと網で焼いても良く、ビール、サワー、ホッピーあたりとの組合せはもう最高。


青臭さが嫌いでなければ塩もみもうまい。生のピーマンを塩でもみ、かつおぶしや塩こぶなどと和える。新しょうがの漬物やゆかりとまぶしてもいとをかし。紹興酒に漬けたり糠漬けでもまたOK。


それから、この野菜、油との相性が抜群だ。炒めることで甘みが増し、油の効果で独特の臭みも消える。だから、てんぷらもうまいし、炒め物(青椒肉絲が代表だ)などしめたものだし、どうしてどうして油味噌にするのがうまい。油味噌は茄子で作るより、滋味深く格調高い逸品が出来上がる。ということは、味噌や砂糖との相性も良いということ。


それに、もともと辛くないトウガラシがピーマンと呼ばれるようになったわけで、香辛料的使い方はバッチリだ。みじん切りをサラダやピラフに入れたり、輪切りをピザに載せたりするだけで、料理がパッと色めくほどにうまくなる。カレーやカポナータ(仏ではラタトゥイユ)には欠かせない脇役だ。


● ● ● ● いろいろなピーマンを試してみると ● ● ● ●

イタリアンレストランで大きくて真っ赤なピーマンを初めて食べた時の感動は忘れない。赤や黄色、オレンジのこの外来種のジャンボピーマンは、「ピメント」等と称して、出はじめはとても高価でオシャレなピーマンだった。アジアからの輸入モノがスーパーに並んでからは、値段も買いやすくなり、最近では、水耕栽培やバイオもの、ビタミンやカロチンが多い珍種も出回り、ピーマンバラエティーは急拡大だ。

イタリアンのブームがけん引役としては大きいが、料理本や料理番組などでも盛んに使われるようになり、あっという間に家庭にも広まった。赤や黄色のこのピーマン、肉厚で、しかも完熟しているから甘みが強い。従来の中果種の緑ピーマンよりもずっと用途は広いといえるだろう。

■■■ ・・ホントにうまいピーマン料理あれこれ・・ ■■■


油に砂糖、ナッツ類と、ピーマンとは相性の良いものを組み合わせて、最高のお茶受けを作る。もちろん、ウイスキーやビールにだって合う「ピーマンとくるみの飴炊き」
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ざく切りまたは輪切りのピーマンはゴマ油でさっと炒め皿に取る。鍋に多めにゴマ油を熱し、ザラメ糖(なければグラニュー糖でも普通の上白糖でもよし)を油で溶かし飴を作る。
これにくるみ、ピーマンを入れてさっと加熱しながらよく混ぜる。

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大果種のピメント(ジャンボピーマン)にはオリーブオイルとチーズがよく合う。くし切りのピーマンをゴンドラに見立ててオーブンで焼く、「赤ピーマンのベネチア風」。ゴンドラの中では相性の良いアンチョビとモッツァレラがマリアージュ。ゴンドラだけにベネチア風とネーミング。
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赤ピーマンは1個から8~12切れ程取れるよう、くし切にする。さっと塩とオリーブオイルをかけてオーブンで下焼き。
歯応えを残して取り出し、アンチョビ(フィレならピーマンのゴンドラ一艘に一枚ずつ)、モッツァレラを載せて更にオーブンへ。
チーズが溶けたら出来がり。最後にラディッシュで漕ぎ手のための赤い帽子を飾りつけ。

写真の一番下のピーマンはアンチョビだけを載せた状態。もちろんこれだけでもうまいが、やはりモッツァレラとの相性は良い。アンチョビのほかにはスモークサーモンやベーコンなどでもOK。ピメントの甘さが引き立つためには、少々塩が効いているものが合うようだ。


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青椒肉絲は牛肉や豚肉よりもピーマンが主役だ。ピーマンの緑の色めきと歯応えが堪らない。 冷めてもうまい青椒肉絲なら牛タンを使うことをお勧めする。ピーマンの香りと味わいを活かすべく味付けはシンプルに。 塩と胡椒だけで仕上げる「青紅椒牛舌絲」
チンジャオロースー
 
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中果種の緑赤黄のピーマンを千切りに。牛タンは塊を求めて自分でカット。5~6mmの棒状に切り揃える。
少々贅沢にクラウンカットの芯の部分だけを使いたい。タンの下味は塩胡椒、少量の酒・醤油・しょうが。よく肉にもみこみ最後に片栗粉。
少量のお湯に粉末の鶏ガラスープ、塩を溶かしておく。水:片栗粉=1:1で少量の水溶き片栗粉も用意。
中華鍋を十分に熱しピーマンをさっと炒める。早めに取り出し、鍋肌が少し冷めたらしょうがのみじん切りをゆっくり炒め、強火にしたら牛タンを投入。
火が通ったらピーマンを戻しスープを入れてひと混ぜ。すぐに水溶き片栗粉を入れてとろみをつけて皿に盛る。黒胡椒をこれでもかという位に挽いてかける。



旦那の居場所は、なんと4ヶ月ぶりの再開でした。外食商品担当の営業を離れて、はや2年半。日々料理に接し料理のことを考えていないと、おいしい料理のアイディアは枯渇するものです。充電期間を経ての第一弾は「ピーマン」のおいしさを礼賛しました。
トウガラシと同種のピーマン、だから英語ではSweetPepper、ピーマンの語源も仏語のトウガラシを意味するPimentから派生した。

油と一緒に食べるとおいしいが、カロチンいっぱいだからとても理に適った食べ方といえる。育て方も簡単、苗を手に入れればベランダでも収穫できる。ビタミンも豊富だから酒を飲み飲みかじるのも案外良い食べ方なのかも知れない。

我が家では来客の時には決まってピメントのマリネを作る。レンジかオーブンで表面を焼き皮を向いたら、ビネガー・ローリエ・塩・胡椒のマリネ液に漬けておく。マリネ液は加熱などしなくて良いからビニール袋ですべてが完成してしまう。オリーブオイルをさっとかけた、赤・オレンジ・黄、鮮やかなピーマンが盛り皿に並べば、それだけで食卓が賑わいでしまうから、ホント「ピーマン」の魅力とは不思議なものです。

(03年2月 copywright hiroharu motohashi)

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