旦那の居場所第44回 「白子」( しらす)礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています


しらす、ちりめん、じゃこ、子女子、かえり・・・「おそらく同義語だ!」と思って使っている単語の違いを言い当てるのは難しい。

「しらす」とはカタクチイワシやマイワシの稚魚、白く透明だから「白子(しらす)」という。これを塩水で茹でて軽く乾したものを白子干し。この「白子干し」が、関西では「ちりめんじゃこ」と名前を変える。「ちりめんじゃこ」とは「縮緬雑魚」の意。なんとも言い得て妙なネーミングだ。

「白子干し」と「ちりめんじゃこ」、元来は同じものを別名で呼んでいたに過ぎないわけだが、一般に、関東では水分の多いものが好まれ、関西ではよく乾燥したものが食されるので、スーパーなどでは、乾燥の度合いによって、この2つの名称を使い分けているようだ。「かえりちりめん」は「ちりめんじゃこ」の少し大きいもの、少し大きくなって帰ってきたお兄さんのこと。「子女子」は「イカナゴ」の子供。いずれにしも稚魚を大量に捕獲し塩水で茹でて乾燥させる、いわゆる「煮干し」の一種というわけだ。

● ● ● ● 白いご飯にしらすを山盛り ● ● ● ●

炊きたてのご飯に、しらすを山盛りにかけてざっと胃袋に流し込む。なんとも幸せな一瞬だ。しらすの白さがご飯の白さに同化して、それを一緒に口に放り込めば、口の中では、ご飯の柔らかさがしらすの柔らかさと同化する。ご飯としらすが同居する茶碗の中は真っ白だが、成長すればくりくり目玉になるはずだった小さな瞳たちだけが、かすかなシミのように残っている。真っ白で柔らかなしらす干、それはカルシウムたっぷりの小さな命が凝縮された少ししょっぱい海からの贈り物だ。


● ● ● ● 生しらすのうまさに絶叫 ● ● ● ●

獲れたばかりの生しらすの味は絶品だ。流通と保存が発達した今では東京でもその味が楽しめる。房総、相模湾、駿河湾、紀伊半島、瀬戸内、日本各地から、WEBでも簡単に取り寄せが可能だ。釜揚げにしたものより、甘味とうま味が強く、タオヤカで柔らかな、上品この上ないうまさ。絶叫しながら食べ続ければ、500gくらいはあっという間に食べてしまう。ご飯によし、酒の肴によし。ああ、いかにも島国ならではの贅沢だ。

● ● ● ● しらすのうまい食べ方は ● ● ● ●
 
やはりしらす干しはご飯との相性が抜群だ。じゃこご飯やおにぎりなど、何杯でも食べられるからご用心。柔らかい旬のグリンピースで豆ご飯をつくり、炊きあがりにたっぷりじゃこをかけて混ぜる。
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至高のうまさに、口の中では味蕾たちが感激している様子が、わかるくらいだ。大根おろしには何故かしらすが付き物だが、これをうまいと感じたことがない。大根おろしの食感としらすの食感は相性が良いとは思えないし、それぞれの美味さをひきたて合う相乗効果も感じられない。醤油などかけようものなら、しらすの風味も消え失せ水っぽさと臭いが気になりはじめる。
どうしてもこれを食べねばならぬなら、少量の酢をかけると両者がたちどころに調和する。塩加減も味わいも上品で柔らかいだけに、個性の強い相方を必要としないのがしらす干しの身上だ。なるべくシンプルに、その味を楽しみたい。 じゃこ・ピーマンご飯


■■■ ・・ホントにうまい しらす料理あれこれ・・ ■■■


ちりめん山椒と獅子唐の相性は最高。シンプルだが某高級割烹の名物料理だ。ここで修行した四国の有名割烹のご主人に教えて頂いたこの料理に、家庭でも失敗しないよう工夫を加えた。酒によし、酒の後のご飯の友によしの「獅子唐とちりめんの山椒炊き」
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山椒の佃煮と柔らかいちりめん(しらす干し)を鍋に入れ、少量の酒と醤油でさっと煎り付け、ちりめん山椒を作る。甘さが足りなければ砂糖でなく、みりんを少量足す。「ちりめん山椒」は高価だが市販のもの(瓶詰めやパック詰め)でも良い。
獅子唐は洗って斜めに小口切。別の鍋にごま油を少量入れて馴染ませ、食感を残して炒める。獅子唐を、ちりめん山椒の鍋に入れて、よく絡ませて出来上がり。(混ぜた後に加熱しないのが失敗しないコツ)


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長女が保育園のおやつで食べて覚えてきた、スペシャルにおいしい「じゃこトースト」。そのおいしさに感動した彼女は栄養士の先生に作り方を聞いてきたらしく、我が家に友達が来る日に手際よく作って、喝采を浴びていた。
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食パンを4つ切りにしてトースト。表面に生卵の黄味を塗り、じゃこを散らして、もみのりをかける。どちらもうまいが、「しらす干し」より水分の少ない「ちりめんじゃこ」の方が野趣がある。写真は旬の柔らかい「子女子」を使用。

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ごま油とほのかな塩味の取り合わせは、後をひくうまさだ。比較的個性のない素材同士をごま油の風味でまとめた絶妙な和え物を一品。「黄にらとえのき茸のしらす和え」
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鍋に湯を沸かし、切りそろえた、えのき茸と黄にらを入れ、すぐに水にさらす。茹で過ぎは禁物。湯通し程度で。えのき茸のぬめりがすっかりなくなるまで水にさらして、ざるに取り十分に水気を切り、冷蔵庫で冷やす。食べ際にしらすを入れて、ごま油でよく和える。塩気はしらすから出るが足りなければ、アジシオを一振りする。




旦那の居場所、今回は「白子(しらす)干し」のおいしさについてでした。
早く目覚めた土曜日の朝は念入りに米をとぎ、タイマーをセットして築地に車でひとっ走り。 場外にある「コナシ」は「しらす」や「子女子」の専門店。白い割烹着を着たおばさん達が産地や色、大きさの違うシラス達を手早く 量っては、袋に詰めてシールしてくれます。 炊きたての白いご飯に山盛りのしらすを想像して、思わずハンドルを握りながら涎を垂らしてしまうというから、ほんと「白子(しらす)干し」の魅力とは不思議なものです。


(03年4月 copywright hiroharu motohashi)

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