旦那の居場所  

居酒屋のおやじを夢みて



居場所 4k


女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。
名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」
これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。


盛り塩、打ち水、木の格子。敷石、玉砂利、ししおどし。引き戸をあければカウンター。 ここは、住宅街の駅前・・はずれ。「お帰りなさい」なんて野暮な言葉はかけないで。 料理の手は休めず、「いらっしゃい」やさしい目だけが笑ってる。居酒屋のおやじを夢見て、 今日も食を愛で、食を楽しむ・・ダンナの居場所。

その第37回は・・・・

  「シングルモルトウイスキー」礼賛  

シングルモルトウイスキーの世界に魅了されたのは、今から12年程前。先輩と通った六本木の店のバーテンダーに、その奥の深さを教えてもらった。シングルモルトとは、ただ一つの蒸留所で作られるモルトウイスキーだけを瓶詰めにしたもので、他のモルト原酒やグレインウイスキーをブレンドしない酒である。その美味しさに魅せられて、どれ程のシングルモルトを飲んできただろうか。 岡山在住時代、地元の老舗バー「リットン」の当時のチーフバーテンダーの薦めで、ザ・スコッチ・モルト・ウイスキー協会に加盟した。スコットランドのエジンバラに本部を置くこのソサイエティーは、プロ、アマに限らずモルトウイスキーを愛する人々の団体で、協会の厳選したシングルカスクの逸品が手に入る。旦那の居場所、今回はシングルモルトを礼賛したい。

● ● ● ●シングルモルトウイスキーのうまさの秘密● ● ● ●


シングルモルト、日本で言えばそれは差し詰め地酒に相当する。スコットランドには多くの蒸留所があるが、それぞれの個性は飲み比べに値する強烈な個性を持っている。生産地区の気候や緯度、立地による違い、蒸留所による違い、水や原料による違い、仕込み樽による違い、熟成期間による違いと、モルトウイスキーの色、香、味、フィニッシュを形作る要素も様々だ。既に操業を終えた蒸留所も多いが、20年30年前に仕込んだものを世に送り出しているところもある。
大麦麦芽(モルト)を発芽により糖化し、発酵させる。これを銅製の単式蒸留釜「ポットスチル」で2回もしくは3回蒸留する。こうしてできた無色透明の荒々しい新酒「ニューポット」をオーク材でできた樽で熟成する。この時の樽はバーボンウイスキーやシェリーの熟成に使われた樽などが使われるが、この樽によっても出来上がりの個性が大きく決する。
保税倉庫の樽の中で、スピリッツは長い歳月をかけて、芳醇でまろやかな、気高い琥珀色の飲み物に変化する。スコットランドの気候と大地が育み、腕自慢の職人達が丹精し、天使に分け前を盗み飲みされながらも20年30年と眠り続けたモルトの傑作。封を切ったばかりのボトルから注がれる重く低いが弾みのある「トクトクトクトク」という音、お気に入りのグラスの内面に垂れる黄金色に輝く足。「樽で眠っていた状態のモルトを何も足さず、取り除かずに瓶に詰めた」スコッチ・モルト・ウイスキー協会のシングルカスクボトルには、スコットランドの風土と作り手の英知までが封印されている。

● ● ● ●旦那愛飲の、お薦めのシングルモルト● ● ● ●

フルボディーのしっかりしたドライ気味のモルトが好きだから、ハイランドのROYAL LOCHNAGAR(ロイヤル・ロホナガー)やスペイ川流域「緑の谷」に位置するGLENFARCLAS(グレンファークラス)が、愛好の品だ。スモーキーなフレーバーを約束する濃い琥珀色、味は、ややフルーティーまたはクリーミーな感じのかすかでふくよかな甘さ、ドライながら余韻が残る後味。水で割ってもしっかりとバランスを崩さない確かさ。こうしたモルトに出会う時は至上の喜びを感じてしまう。女将も好きな、女性でも飲みやすいものは、GLEN MORANGIE(グレンモーレンジ)、ABERFELDY(アバフェルディー)、BALVENIE(バルヴィニー)、少々重いがROYAL BRACKLA(ロイヤル・ブラックラ)あたりがお薦めだ。ビャクダンのような華やかな香、バニラやハニーナッツ、ラムレーズンのようなスイートな香、シナモンのようなスパイシーな香、フレッシュでフルーティーな柑橘系の香、上品で秀逸な香に包まれて、食後のひとときを過ごしてみてはいかがでしょう。

● ● ● ●シングルモルトの飲み方● ● ● ●


グラスはチューリップ型の香をより感じるものを使いたい。旦那は女将から贈られたリーデル社のHANDMADEのシングルモルト用を愛用している。静かにグラスを回しながら、色を確かめ、鼻腔を広げ香を楽しむ。ニート(ストレート)でゆっくり味わう。次に水を半量加える。驚くことに大半のモルト・ウイスキーはこの瞬間に表情が激変する。この変化がまた楽しい。食前に楽しむもの。食事にあわせるもの。食後にゆっくり嗜むもの。読書をしながらナイトキャップで選ぶもの。キャンプの時など、愛用のハンティングフラスクにお好みを入れて行き、焚き火の前で飲むのも楽しみの一つだ。シングルモルトとの出会いは、お酒との付き合い方の幅を大きく広げてくれた。



・・シングルモルトに合う料理・・

まずは、スモーキーなもの、ハムやスモークチーズ、スモークサーモン等が嬉しい。そして、少し塩気のあるもの。ミックスナッツなどは定番だ。ウイスキーのほのかな美味さを最大限に引き出すには、柔らかい甘さを持つチーズやレーズン等がぴったりだ。
サーモンをクリーミーなウイスキーソースでボイルしたもの等、英国には涙ものの缶詰めもある。スコットランドでは、羊の内臓とたまねぎをミンチにし、牛脂とカラス麦を加えて塩と胡椒で味付けし、羊の胃袋に入れてゆでる「ハギス」という料理が一般的。ハギスはモルトに欠かせないスコットランド伝統の郷土料理、いつの日かスペイ川で釣りでもし、パブでハギスとモルトで乾杯といきたいものだ。

我が家には欠かせない毎朝の定番は、プレーンなヨーグルトにたっぷりのレーズンをかけるもの。このレーズンは1週間分、まとめて土日にウイスキーで戻している。「モルト・レーズン」のおいしさにはびっくり。毎日の鉄分補給にはこのレーズンが欠かせせない。モルトウイスキーのためのオードブルには、クラッカーにクリームチーズを載せ、「モルトレーズン」を山盛りに。レーズンバターよりも格段に上品なレーズンチーズをお試しあれ。
市販のジャムをベースにオリジナルでコクのあるジャムを作ろう。ジャムの用途が果てしなく広がる「大人のジャム」

「モルト・レーズン」
レーズンを良くほぐして鍋にいれ弱火で加熱、ごく微量の砂糖とモルトウイスキー少々を入れかきまぜる。ウイスキーが飛んでレーズンがぷっくらとしたら出来上がり。ウイスキーの入れ過ぎ、加熱のし過ぎは禁物。微量の砂糖はレーズン本来の甘味を引き出すためだからほんのちょっとで良い。

「大人のジャム」
市販のジャムを鍋に入れ、モルトウイスキーを少量入れて、混ぜながら加熱。液分が飛んだら出来上がり。ジャムでもマーマレードでもOK。プリザーブタイプのものがお薦め。バケットに塗りオードブルにしたり、クロテッドクリームととともにスコーンに合わせて、アフタヌーン・ティーを楽しもう。


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スモークサーモンとウイスキーの相性は抜群だ。なかでも、ウイスキー樽の廃材チップで燻したスモークサーモンはウイスキーと合わせる料理としては最高の逸品だが、入手困難。日本でウイスキーと共に楽しむ時は、せめて、しっかりスモークした上等なものを選びたい。価格と品質のバランスからすると「王子のスモークサーモン」がお薦めだ。これに特製のソースを添える「スモークサーモン・レモンウイスキーソース」


「スモークサーモン・レモンウイスキーソース」

完熟したオリーブをモルトウイスキーで軽く煮ながら、アルコールを飛ばし、砂糖、塩、レモンの絞り汁、ケッパーを入れて、片栗粉かコーンスターチでトロミをつける。白菜は繊維を切るように繊切りにし塩で揉んで水気を出す。2時間ほどして良く絞り、微量の砂糖、白ワインビネガーで薄く味付け。皿に白菜、スモークサーモンを盛り付け、冷やしたソースを添える。


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モルトウイスキーには羊肉の料理が欠かせない。「ハギス」は再現困難だが、ラム肉でソーセージ風のハンバーグを楽しむ。 厚めに焼くか、薄めに焼くかは、お好み次第で、「ラムのソーセージ風」


「ラムのソーセージ風」

弱火で甘味が出るまで炒めた玉ねぎのざく切り・にんにく、ラム肉、タイム、塩、胡椒、グレープシードオイル少々をフードプロセッサーで粗く挽く。好みの厚さ、形に整形して、フライパンで両面を焼く。厚さがあるならその後オーブンで中まで火をす。余分な脂はしっかり落としたいので、加熱はしっかり臭いや脂が気になる場合は、焼いた後軽く茹でてお湯を切る。ソースは不要、そのままで充分いけるが、お好みでウスターソースとケチャップを。

 

旦那の居場所、今回は「モルトウイスキー」のおいしさについてでした。旦那愛読の書に、ブライアン・フリーマントルの「チャーリー・マフィン」シリーズがある。よれよれのスーツを着て、恐ろしく幅広のハッシュ・パピーを履いた英国の諜報部員「チャーリー・マフィン」は、一日の終わりに、シングルモルトを飲みながら、その日一日の無事を思い、見落としたことがないかを反芻する。 何をやっても様にならないチャーリーでさえも、このシーンは何故かしっくり来る。 めまぐるしい一日の終わりに、ウイスキーボトルを傾け、ほんの一杯。疲れもストレスもグラスのアロマとともに消えうせてしまうというから、ほんとシングルモルトウイスキーの魅力とは不思議なものです。

(02年2月 copywright hiroharu motohashi)
参考文献 「モルトウイスキー大全」 土屋守 著 (小学館)

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