旦那の居場所第5回 茄子礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています

「秋茄子嫁に食わすな」の諺の本意が諸説あるのはご存知の通り。とはいえ、ナスの旬はやはり夏。 旦那の実弟(東北地方各県で勤務すること10年)の案内で、女将と一緒に東北3大祭りを制覇した夏。 小なす漬けとビールは片時も手元から離さなかった。「民田(みんでん)」「ちび丸」などがこの手の小なす漬けの品種。 丸なすよりも、草勢は弱く、寒さ・暑さにも弱いそうな。地方によって、呼び名もいろいろ。丹波や山形の小茄子も絶品の誉れあり。 最近では海外で生産したものを塩漬けし、 国内で本漬けすることもあるという。

◆ナスとは「一生の伴侶なり」◆

旦那幼少のみぎり、どうしても好きになれない野菜に「ナス」があった。まず、あの「気持ち悪い昆虫」を思わせる皮の色、 次に食感…。糠漬けの時のグニュ、ジュワー。味噌汁の時のスポンジ。 どうしてこれがうまいのか?真剣に悩んだりした。それが一転してナスを好きになったのは 酒を飲むようになってからだ。今ではナスの漬物は大好物。王様は糠漬け、塩もみもいい。しば漬けのシャキカリ感もたまらない。 みょうがや胡瓜、トマトなど夏野菜達との相性も良い。千葉は松戸の後輩の家でお土産に頂いたからし漬けは絶品だった。

◆ナスのうまさの秘密◆

ナスのうまさの第1は、油との相性。天ぷら、炒め物などなんでもござれ。それでいて、漬物にした時には皮のパリンとした食感が小気味よい。味噌やからし、しょうが、醤油、酢との相性まで良い。煮物、炊き物ではほっくりと味がしみて、うまみを体全体で受け止める。 賀茂ナス、米ナスを油であげて柚子味噌などを塗ったりしたら、もう反則的にうまい。誰がこんなおいしいマッチングを考えたのだろうと、脱帽してしまう。 火が通るほどに果肉はとろける様にジューシーになり、甘みを帯びる。

居酒屋でも何故か「焼きナス」があると頼んでしまう。皮の焼けた香ばしい匂い、ゆらゆらと揺れる削り節、おろししょうがにさっとかけた醤油の香り。
と、まあ、ナスとはまことにいろいろなお料理に出番の多い野菜なのであります。

★★★ホントにおいしい・・「茄子」にあうあの料理★★★


イタリアはローマの安宿のおかみさんに紹介してもらったレストラン、そこで食べた前菜。
素材が何かわからない程、やわらかく、うま味がしみ込んだ、よく冷えていた料理。世界にナスは1500種類あるので、この時のナスはどんなナスだったかはわかりません。 オリジナルはきっと一度オリーブ油で素揚げしていたと思うが・・
イタリア料理のはずなのに、急に日本を思い出させたあのやさしい味の「ローマのナスの冷製」

nasu01.jpg●●● 「ローマのナスの冷製」●●● 
ナスは丸ごと焼く。(時間がない時は生のまま皮をむいて油で炒める) 完全に火が通ったら 皮をむき、今度はごくうす味のコンソメで煮込んでいく。単調な味にならないよう市販のコンソメに、 ねぎや玉ねぎなどを一緒にいれて煮てもいい。オリーブオイルを入れるとぐっと 味が膨らむ。物足りない時は、こしょう、塩、白ワインなどで味を調える。 この料理に関しては、醤油はあまり良い隠し味にはならない。



女将の作ったこの料理のあまりのうまさに皿を抱え込んで食べてしまった。女将の得意は和え物・・。そのオペレーションは至って簡単。材料を切って、(茹でるか炒める)、和える。 材料、切り方、あわせ調味料によって、和にも洋にも中華にもなってしまう。 女将の料理にしては、これは手をかけている部類に入る。これはナニかな? 名付けて「和風ラタトウーユ」

nasu02.jpg●●● 「和風ラタトウーユ」 ●●● 

ナス、ピーマン、きゅうり(あればズッキーニ)、トマトは適当な大きさに切り、しょうがは微塵切り。 材料をすべて多めのゴマ油で炒め、ほんだしと醤油で隠し味。 冷たく冷やしていっぱい食べよう。 ししとうやオクラなどを入れてもいい。長ネギなども意外とマッチ。 敢えて「和風」でなく、オリーブ油、にんにく、バジルなどでこしらえても、もちろんうまい。



我が家でナスといえばこの料理も多い。加茂ナス(ホントはきっと米ナス)を見かけるとつい作ってしまう。手作りの柚子味噌だと、なおさらおいしく感じてしまう。…「ナスの柚子味噌田楽」 もちろん油でほっくりと揚げたナスは本当においしいが、ちょっと手間で・・という時にもおすすめ。


nasu03.jpg●●● 「ナスの柚子味噌田楽」 ●●● 

加茂ナスは皮のまま半分に切る。(縦割りか横割かは意外と好みがある)食べやすいように身に切り込みを入れたりすればプロっぽい。 多めの油で皮も身も揚げるように軽く炒め、ラップで包んで電子レンジで柔らかく。 この方法だと比較的簡単に短時間でホクホク、ジュワーの調理が出来る。 揚げるより油の吸収も少なくあっさりできる。油で炒めることで、色もとまる。(アクによる変色防止) 熱いうちに柚子味噌を身の表面に塗ってフーフー食べる。


*柚子味噌の作り方 麦味噌、砂糖(ざらめなどもいい)、みりん、柚子の皮(もったいないから果汁も)を 鍋でよく煮込む。テフロンなら焦げ付かず簡単。好みでいりゴマや粉砕した煮干しなどいれてもいい。本当にうまいので、是非一度手作りを。多めに作って冷蔵庫で保存。




旦那の居場所、今回は「茄子(ナス)」のおいしさについてでした。 ナスはほとんどが水分で、栄養価はあまりないのですが、食物繊維が豊富でポリフェノールを多く含んでいるところなぞは、今話題の存在といえましょう。
本来アクの強い野菜ですが、古来、塩や塩水でアクを抜いたり、油で色をとめたり・・と生活の知恵でうまく付き合ったきたわけです。
日本料理だけでなく、中国料理、イタリアン、フレンチと何れの食材としても重宝されているのは流石です。
でもそこはやはり日本人、ホントにうまい茄子の漬物が出てきたりすると「うーんおぬしやるな」と、唸ったりなんかしてしまうから不思議なものです。

98/8月

Page top