旦那の居場所第41回 「夏の鍋」礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています


まだ、学生時代。はじめて訪ねた博多の地で、生まれてはじめて「モツ鍋」を食った。なんといううまさ!夏真っ盛り、汗だくだくで、鍋をつつく。にんにくの刺激。唐辛子の刺激。これぞ、夏にふさわしい庶民の鍋!鍋は冬。なんて、固定観念を根底から覆す、うまい、うまい、夏の鍋。

● ● ● ● 夏の鍋うまさの秘密 ● ● ● ●

「ああ夏なのに」何故、こんなに、汗を流しながら、わざわざ鍋をつつくのか?答えは簡単。「夏だから」。暑さに負けず、スタミナ補給。野菜も採りたい。ボーとした頭に渇を入れる刺激が欲しい。仲間で集い、家族で集い、夏祭り。キーワードは「暑い」「辛い」「ビールがうまい」そして、やっぱり「熱い」。じめじめした、日本の夏を吹き飛ばす、だから食べたい。ああ、うまいかな、夏の鍋。


● ● ● ● 夏の鍋の脇役たち ● ● ● ●

夏の鍋には、主役が薄い。本来、夏の素材で、鍋向きの素材は少ない。「どじょう」「いわし」くらいのものか。野菜に至っては、とんと見当たらない。でも脇役は豊富だ。夏だから欲しいスパイスたち。特に唐辛子の刺激は堪らない。他にも、青じそ、梅干し、みょうが、しょうが、わさび、らっきょう。鍋に放り込んでしまいたい、クセのある輩は枚挙に暇がない。そう、だから「夏の鍋」は、ポピュラーな素材を、味付けの工夫で変身させてしまう料理が多い。気温や湿度、素材に助けられて文句なしにうまい「冬の鍋」には太刀打ちできない、ラジカルな凄さがある。


● ● ● ● ああ うまいかな 夏の鍋 ● ● ● ●

隅田川の界隈には、今尚、古風な「どぜう鍋」屋が点在する。おみやげにもなる、団扇でせめてもの抵抗を試みながら、汗だくで食べる「まる鍋」は何と言っても夏の風物だ。ねぎと山椒をたっぷりかければ、いくらでも胃袋に落ちていく。ビールに良し、冷酒に良し、ごはんに良し。花火の時期になると、どうしてもあの割り下の香りが恋しくなる。

アジア各地の鍋も夏向きだ。唐辛子、山椒、キムチ、にんにく・・・。麻(舌にぴりぴり)とラー(とにく辛い)の味付けが最高だ。タイスキ(タイ)、四川の火鍋(中国)、カムジャタン(韓国)など、逸品は数知れず。ニョクマム、干し海老、干し魚などスープのコクを支える隠し味も涙モノ。固定観念を捨てて、さっぱりと未知の鍋にトライしたい。

■■■ ・・ホントにうまい夏の鍋あれこれ・・ ■■■


「もつ鍋」ブームの終焉、「狂牛病」騒ぎと「もつ鍋」ファンには残念な昨今だ。スーパーの肉売り場でも、牛のモツは見かけなくなった。それでも食べたいモツ鍋!もちろん、牛モツが苦手という人は豚モツや鶏肉、ミートボール等でもうまい。学生時代、博多ではじめて食べた、あの「幻のモツ鍋」のだしを再現するために、数ある調味料を試し、隠し味を探し続けた。多くの試行錯誤の上、味のベースは「にんにくのうま味」だという、シンプルな答えに行きついた、「幻のモツ鍋」
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(だし)
鍋に日本酒2カップ、みりん1カップを入れ、にんにくのみじん切り(2~3片分)を投入。沸騰したら3分程度で火を止める。鍋にふたをして、予熱でにんにくの風味をじっくり移す。(最低3時間)さらに鍋を熱し沸騰したら、醤油を2カップを加え1分加熱、火を止め鷹の爪を2本入れて、さらに寝かせる。(最低3時間)次に鍋を熱し、水を7~8カップ加えて味見。コクを補うために「さきイカ(いかの燻製)」を30g程度入れて煮る。「さきイカ」は鍋の具として食べてしまっても良いし、取り出してごま油でさっと炒め、ラー油を効かせて別の品にしても良い。
(具)
モツはよく洗い、沸騰したお湯にしょうがと一緒に入れ火を通す。ざるにあけ、またよく水洗い。キャベツ、にらを大量に刻む。補充用のにんにくと鷹の爪をスライス。にんにく、鷹の爪→モツ→野菜の順で軽く煮ては食べ、軽く煮ては食べを繰り返す。その都度冷たいビールの栓を抜けば、ビールはあっという間に胃袋に収まってしまう。最後にチャンポン麺をだしで煮る。にんにくと唐辛子風味のチャンポン麺はどんなに満腹でもペロッと食べられるのでお試しあれ。


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夏だから調理に時間をかけたくない。まして加熱調理は最低限にしたい。しかも、ごはんがススム、スタミナ料理!といえばこの鍋を置いて他にない。市販の具材入り「麻婆春雨」の素を使った、とてつもなくうまい、「ごはんがススムくん、春雨鍋」。土鍋を使う場合は、炒め工程は別の鍋で済ませよう。

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「ごはんがススムくん 麻婆春雨用(甘口)」の他に材料は、ひき肉(300g)、なす(2本)、ねぎ、にんにく、しょうが程度でOK。鍋にごま油を熱し、にんにく・しょうがのみじん切りで香りを立たせたら、ひき肉、なすを炒める。水800~900cc(製品には400ccと書いてある)を入れて、ねぎの青いところと、添付の春雨を投入。煮立ったら添付の具材入り調味料(レトルトパック)を入れ、かきまぜて火を止め、しらが葱を散らす。最後のおつゆに、ご飯を入れて「おじや」にすれば、子供は何杯でもおかわりする。具材として、お麩や豆腐、ひきにくの代わりに豚肉のうす切り、白身の魚等を入れても良い。

注)規定の分量より2倍程度薄めて、「麻婆春雨」の素を使いますので、味に深みとコクがある、「ごはんがススムくん」シリーズでないと、おいしく出来ません。また、子供がいなければ、「中辛」が良いでしょう。


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カルビ肉を炒るように煮る。クセの強い野菜とともに頬張る。コチュジャンのコク、りんごの甘さ、山椒のぴりりで、ビールもススム。赤ワインをがぶ飲みしたい時にも、この鍋は最高。「コリア風カルビ鍋」

 
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たれは、酒100ccを煮立て、次にみりん100cc、これも煮立ったら、醤油100ccを入れて沸騰直前に火を止める。冷蔵庫でしばらく寝かす。食べる直前に、りんご(約半分)としょうが(少々)のすりおろしを加える。具材の準備、ごぼう、にんにくの芽、メンマ、赤ピーマンは下茹でする。しし唐辛子は洗うだけ。えのきは細かく刻む。カルビ用の牛肉は食べる直前、ボールの中で、ごま油、しょうが・にんにくのすりおろしをよく揉み込む。すき焼き鍋にごま油を熱し肉、野菜を入れてジュージュー焼いたら、たれを振り入れて炒るように煮込む。 すぐに煮えるので、焼き肉の要領でどんどん入れて、どんどん食べる。



旦那の居場所、今回は「夏の鍋」のおいしさについてでした。「冬の鍋」の回では、ピーナッツ鍋が好評で、フジテレビの番組「東京ジモティー」の鍋特集に出演しました。今回の鍋はそれを上回る役者揃い、中でも「ごはんがススム君 春雨鍋」のうまさは想像を越えています。 さっそくお試しあれ。 今回、「夏の鍋」を礼賛するにあたり、家族で連夜、鍋を楽しみました。流石に6歳の娘は夕方、友達の家から帰ってくるなり、今日も鍋と聞いて一気に落ち込んだ様子でした。 確かにいくらうまいからと言って、子供にとって真夏に毎晩、鍋というのも苦しいですよね。

「旦那の居場所」は読者の想像力に任せて、おいしい料理を頭と舌で想起し、試行錯誤しながら、実際に作ってみる過程を 大切にしたいとのコンセプトから、レシピの詳細は敢えて記載しない方法を採っています。しかし、実際に我が家で「冬の鍋」を食べた読者から「ページを参考に自分の家で作ったものとは全然違う!」との反響が大きかったため、今回はだしの調合を簡単に記載することにしました。

でも、家庭により使っている醤油やみりんは違うし、味の好みにも個性があるので、鵜呑みにしないで我が家の味を創作してください。 冷蔵庫の残り物が気になるのは冬よりむしろ夏!食欲のすすまない夏こそ鍋でスタミナ補給といきたいものです。それにしても熱帯夜の続く中、わざわざ鍋を囲まなくてもと、自嘲しながら、またやっぱり食べたくなってしまうというから、ほんと「夏の鍋」の魅力とは不思議なものです。

(02年8月 copywright hiroharu motohashi)

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