旦那の居場所第24回 カレ-礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています

カレーにまつわる思い出は枚挙に暇がない。20歳の時、シンガポールで 覗いたカレー店では頭にターバンを巻いた人が、器用に指でカレーを食べていた。 熱くないのだろうか?それにしても、見事な指使いに感動したものだ。 5歳の時には、大塚のボンカレーが登場した。赤い箱の甘口と黄色い箱の辛口。 どちらも松山容子さんがにっこり微笑むパッケージが印象的。

初めてキャンプに行って、野外で ボイルして食った時の涙もののうまさは忘れられない。 会社入社当時の23歳の時、「COCO壱番屋」の1300gカレーに挑戦した。 失敗したら先輩のおごり。意地になって見事完食したものの、脂汗がしたたり、そのまま動けなくなり、 車の後部座席に転がされて独身寮まで辿りついた。胃袋の中身が胃袋を押して 引き攣れた様にキューキュー痛む。中のカレーライスに押されて、自分の胃袋の形が はっきりわかったのには、閉口したものだ。

● ● ● ●カレーうまさの秘密 ● ● ● ●

二日酔いが抜け切らない昼飯は、必ずといって良い程、カレーライスを食べる。 香りを嗅ぐと不思議と二日酔いのムカムカを忘れ、胃袋がむくむくと働きだすのを感じる。 料理として完成されたメニューのなかで、最も食欲増進、消化促進効果のある食べ物だ。 だから、こんな時のために後でゲップの出ないおいしいカレー屋さんを探しておくことが必須になる。

たまねぎやにんじん、リンゴの甘味とコク、スパイスののぼり立つ香気、肉から出るうま味、食欲をそそる黄色 辛さ故により感じる熱々の温度。これらが渾然一体となって、五感に攻め寄せてくる。 そして、食べ終わった後の満足感と清涼感。辛いものへの反応として、発汗が促され、結果として、汗腺からの 放熱が始まり、体の温度が下がっていく。唐辛子に含まれる「カプサイシン」がダイエットに効果が あるとして俄然脚光を浴びたりもしている。猛暑の8月、「カレーの季節」は今なのだ。 目で、鼻で、舌で、そして、食道で、胃袋で、肌で、身体全体で楽しむ。ああ、うまいかな、カレー。


● ● ● ●新宿中村屋のカリー ● ● ● ●


カレーの老舗といえば新宿中村屋が筆頭に挙げられる。 お店の味もさることながら、業務用に作っているカレーのレベルも極めて高い。 スパイスの特徴を知り抜き、最大にその効果を発揮させる。 大量調理にも、冷凍保存にも耐えられるスパイスの香り高きインドカリー。 まさにカレーを知り尽くしたカレーのプロが作るカレーといえる。 中村屋は、欧風カレーではない、インド本来のカリーを作り始めた先駆けだ。

第一次世界大戦中、日本に亡命したインドの独立運動家ラス・ビハリ・ボース氏を 中村屋主人相馬愛蔵氏がかくまったことが中村屋に本格インドカリーをもたらした。 志と志が国を越え、人の愛となって育んできた、スパイスリッチなカリー。 75年を越える長きに渡り、多くの人に愛され続けてきた奥の深さを思い知る。 当然、中村屋に行けば、今でもインドカリーの味が楽しめる。2階では1300円、3階では2300円。 費用対満足度で言えば2階で充分だ。一口食べた瞬間に「うん。これこれ。」と喜色満面。

カレーとひとくちに言っても、様々な特徴がある。 小麦粉でトロミをつけた、コクが命のイギリス式。冷めて残ったローストビーフの再利用法として生まれたに違いないリッチなカレー。 レモングラスやココナッツミルクの香り高いタイ式、インドネシア式等。 インド式にも北部と南部では、トロミやスパイスの使い方、具材に大きな違いがある。

具の違いは、宗教や信仰の違いでも大きい。マトン、豚肉、鶏肉、牛肉、野菜と多くのバリエーションが派生する。 食べれば食べるほど、奥の深さを知るカレー。蕎麦屋のカレーも捨てがたい日本式カレーの代表だ。

■■■ ・・家庭でもほんとにおいしい、カレ-アレコレ・・ ■■■


「本格派のドライカレー」 日本郵船が元祖と信じるウエットで気品高いドライカレー。 今でもレストランで、はたまた、ボイリングパックで、その最高の味を楽しめる。 じっくり煮込んだうま味に富んだ逸品をライスにかけて、フライドオニオンを散らせば、 気分はもう豪華客船、ここは、欧州航路かハワイ航路か。いずれにしても 食を楽しむ人生航路で、一度ははまる最上のスパイス料理に他ならない、 お手本を舌に描きながら行き着いた、オリジナルな「本格派のドライカレー」
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みじん切りのたまねぎ、にんじん、しょうが、細かく潰したにんにくをじっくり炒める。 合い挽きひき肉はボールに空けて、30分程度、ひたひたの水に浸ける。(かなり大胆なことなので、最初は恐い) 水が血や汚れで濁ったら替える。その後、ザルにあけて水を切る。(煮込んだ時出るアクの正体は血や汚れだ)
炒めた野菜に、ひき肉、カレー粉、基本のスパイスをいれて、さらによく炒める。(子供用はカレー粉を入れる前に 別鍋に分け、市販の甘口ルーで味付け)
水(または固形のフォンドヴォー(市販)を溶いたお湯で煮込んでいく。 汁気が飛んだら、また足して。食べる前にも、基本のスパイスで香りを入れて10分程度煮込む。 チャツネの代わりに、マーマレードやジャムを入れてもコクが出て、一層深い味わいになる。
バターライスやサフランライスも良いが、普通のライスで充分。 隠し味に、市販のルーひとかけら、少量の砂糖、蜂蜜、フリーズドライのコーヒー等を入れるも良し。 基本のスパイス=ターメリック、カルダモン、コリアンダー、クミン(シナモンの風味もGOODだ)


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「簡単便利な即席タイ風カレー」 即席のカレーでこんなに本格的でうまいカレーがあったとは。 タイレストランで火を噴きながら食べる、あのカレーが簡単に家で作れる。 ごはんでも、パンでも合う。ビールがススム夏の一押しカレー。

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鶏肉、なすをサラダ油で炒めて、このカレーの素を投入、お水で調節。 かならず、ココナッツミルクを入れて、ココナッツの脂肪に、スパイスの香りと色を溶け出させる。 15分も煮込めばOK。


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カレーには福神漬けが欠かせない。でも、これにも、ピンきりあり。 で、やはり自分で作ることにした。手作りの強みで野菜を大きくカット。 がりがりバリバリ、ワイルドに食べたい「手作りの大福神漬け」
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大根、蕪、蓮根、なす。材料は乱切り。大きめで。 なす、蓮根はアク抜き。蓮根はさっと塩水で湯がく。 その他は塩もみして、水気を切る。 煮沸した保存容器を酢で洗い、具材を投入。さっと酢を回しかける。 タレに漬け込み、漬かるのをそっと待つ。1週間くらいからが食べ頃かな。 タレ=酒、みりんを火にかけ、アルコールをざっと飛ばして、砂糖、濃口醤油を入れる。



旦那の居場所、今回は「カレー」のおいしさについてでした。 あまりにも、奥が深く、幅のある料理の礼讃だから、いずれは第2弾を書かなければ この料理の魅力は語り尽くせないと思います。 小学生の頃、遊びに熱中し、暗くなるまで遊んでいた時分。 どこからともなく、ぷーんとカレーのいい臭いが漂ってくると、 急に腹が減ってきて、友達が一斉に顔を見合わせ「そろそろ帰ろうか」と、家路に就いた。 今でも、夕方に住宅街などを歩いていて、このカレーの臭いに出くわすと なんだか子供達の大はしゃぎする、家庭の団欒の情景が思い浮かんできて、 もしかしたら、今日はうちもカレーかな、なんて思わず期待してしまったりするというのだから 本当にカレーの魅力とは不思議なものです。
(2000年8月 copywright hiroharu motohashi)

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