店主の食卓

旦那の居場所第32回 トマト礼賛 

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています


小学生の時分、トマトは夏のおやつだった。箱ごと買い冷蔵庫に補充。 喉もからから、遊びから帰ってきて、冷えたトマトを丸かじりする時のうまさ! 大人になってからの「ビールの最初の一杯」にも勝る至福の癒し。 かぶりつけば、じゅわっと果汁がほとばしり、まだ泥で汚れた手と顔が濡れる。 トマトの青臭さと手指の泥くささ、夕立のほこり臭さ、懐かしくも遠い、子供の頃の夏休みの臭いだ。

● ● ● ● いろいろなトマトたち ● ● ● ●

はじめてミニトマトを見た時の感動は忘れられない。かつては機内食用に作られていたものだったとか。 とにかく、可愛くて、とても高くて、ちゃんとトマトの味がする小さな野菜。 そんな可憐なミニトマトに出会ってから、かれこれ20年くらいになるのではないか。 「完熟」という言葉はいつ頃から使われ始めたのだろう。 「完熟トマト」なるものを初めて食べた時のあの甘さの感動は忘れられない。 「え? ということは今まで食べていたのは熟していないトマトだったの?」となにやら不思議に思ったもの。 品種の進歩か、輸送の進歩か、株上で完熟したトマトも毎日買える値段で手に入るようになったのはありがたい。

「冷やしトマト」は最高の夏のつまみ。不思議と居酒屋では「くし切り」でマヨネーズ。 これがビストロやトラットリアでは「スライス」でドレッシングになる。 家庭では「トマトの輪切り」に何をかけるか。醤油と塩、醤油と砂糖、何故か塩派と砂糖派に分かれるようだ。 塩はトマトの風味と酸味を強調し、砂糖は甘さを増やしてマイルドな味になるようだ。

イタリア語では「ポモドーロ」。直訳では「黄金の果実」。トマトはイタリア料理には欠かせない。 少し先の尖った細長い真っ赤な奴で、「サンマルツァーノ」「ローマ」種が代表格。 パスタ、ピザ、煮込み料理、とにかくオリーブオイルやニンニク、バジルとの相性は抜群だ。 トマトのうま味がイタリア料理の隠し味であることに間違いはない。

● ● ● ● トマトうまさの秘密 ● ● ● ●

トマトのうまさは、何と言っても、あの酸味と甘みの好対照だ。酸味の主成分はクエン酸。 かぶりつけば、皮が裂けると同時にゼリー部がじゅわっと飛び出し、種のつぶつぶが舌に残る。 酸味や甘みに劣らずうま味も強い。果肉が緻密で締まったものほどおいしい。 トマト臭さや皮の硬さは好みによるだろう。

料理のプロがトマトを使う時は、皮を湯むきし、種を取ることが多い。 何故そんな手間をかけるのかが不思議な方は、一度お試しあれ。 皮を剥いたトマトは舌に優しく口に清々しいし、種を取り除いたトマトには苦みが残らない。 取り除いた種だけを食べてみると、種が如何に苦いものかよくわかる。 特に、缶詰のホールトマトなどは種を取りたい。トマトソースなど作れば、この手間の差は 味に如実に現れる。 夏の間はうまいトマトを、とにかくたくさん食べたい。きりりと冷えた夏野菜の王様、ああ本当にうまいかな、トマト!

■■■ ・・家庭でもほんとにおいしい、トマトアレコレ・・ ■■■
この季節、「冷たいトマトのパスタ」が最高だ。5歳の娘はこのパスタが大好きで、 どこのイタリアンで食べるパスタよりも、パパの冷たい赤いパスタがおいしい!と言ってくれる。 2種類以上のトマトを使うのがコツ。ソースは予め作り冷やしておけるので、夏のパーティーにはうってつけ。

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オリーブオイルで、玉葱のみじんぎりを炒め、種を取り除いた缶詰のトマトを注ぐ。 月桂樹の葉を入れてしばらく煮込む。この基本のトマトソースは万能選手。 この基本のソースに、炒めたにんじんのみじん切り、茄子、しめじか椎茸、セロリを入れて 塩で味付け、ソースは完成、ステンのボールに入れて良く冷やす。 別にフレッシュのトマトをざく切りにし、ボールに入れて、塩、オリーブオイルを振りかけ良く冷やす。 細めのロングパスタ(1.5~1.7㎜程度)を少し柔らか目に茹でて冷水に取り、水切りの後、 オリーブオイルと「アジシオ」で和える。これに良く冷えたトマトソースとトマトのざく切り、ちぎったバジルをかけて出来上がり。 2種類のトマト、パスタそれぞれに塩味をつけるため、しょっぱくなり過ぎないように注意。 冷たいパスタは後から塩味の追加が可能だから、最後に味を見てから仕上げを。


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思いっきり甘いフルーツトマトはシンプルに食べたい。モッツアレラのスライスと合わせても良い。 しかし、この料理、シンプルだからこそ、モッツアレラの質と状態に左右されてしまう。 特に甘い完熟のフルーツトマトなら、むしろ、絹ごし豆腐との相性が良いだろう。

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トマト、豆腐、ドレッシングはそれぞれ良く冷やしておく。 フルーツトマトは良く切れるナイフでスライス、絹ごし豆腐も、同じ大きさ、厚さにスライス。 冷たいドレッシングをまわしかけ、バジルの香りを楽しみながら召し上がれ。 ドレッシングは、玉葱の粗みじんをサッとオリーブオイルで炒め、醤油、酢、砂糖で調味したもがよく合う。


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贅沢で夏向きのあっさりしたラーメンは如何? トマトの酸味が食欲をそそる「夏のミニトマト湯麺」

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夏だからラーメンスープは自分で作らず市販の「スープ付きのチルドの生麺」を活用したい。 ご存知、生麺の大手「シマダヤ」の東京風の細麺縮れタイプや高井戸の池田製麺の「東京雷麺」が旦那のお気に入り。 夏のラーメン、具はシンプルに。メンマ、のり、オクラ、薬味はネギではなく茗荷といきたい。 そしてミニトマト。手間はかかるが湯むき(皮に切れ目を入れて熱湯で1分、皮がするっと剥ける。)して、ハーフカット。 ボールの中で、しょうがのみじん切り、ごま油、「アジシオ」と和えて1時間置く。 熱々のラーメンに、具をトッピング、最後にトマトをタップリと入れる。醤油の香りとスープの塩気にトマトが絶妙な酸味と甘みを加えてくれる。



旦那の居場所、今回は「トマト」のおいしさについてでした。 フレッシュで食べる以外にも様々な形で食卓に上り、知らずして口にしているトマト。 固形のドライトマト、粉末の乾燥トマト、ホールやダイスカットの水煮缶詰、ピューレ、ペースト、ケチャップ、ジュースと加工方法も多岐に及ぶ。 日本で普及したのは明治から大正にかけて。あの色、あの酸味と苦み、ナス科とはいえ当時としてはかなり前衛的な食べ物だったに違いない。

トマトはペルー、エクアドルが原産、メキシコを経て、北アメリカ、ヨーロッパに伝わった。このアンデス文明の贈り物が、今では世界各国の食文化を支えている。 赤色の正体はリコピン、橙色はカロチン。ビタミンA、Cも豊富とくれば、夏にはぴったりの野菜。 蝉の声を聞きながら、流水で冷やしたトマトに、茹でたての枝豆で、ビールの栓を抜けば蒸し暑さなどどこ吹く風?というからホント「トマト」の魅力とは不思議なものです。

(01年6月 copywright hiroharu motohashi)

旦那の居場所第30回 蕗礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています

春の野山で、土筆(つくし)や野芹を採った思い出。 「君がため 春の野に出て若菜摘む・・」の歌が頭をよぎる季節。 冴え冴えとした日差しの中、ピンと張りつめたまだ寒い空気の中で、 生まれたばかりの若い力がそっと土の中から顔を出す。 「ふきのとう」という響きにも、日本の春を想わせる独特の語感がある。

● ● ● ●春の山菜の魅力 ● ● ● ●


我が家では、春の香り達を楽しむための山菜てんぷらパーティーがこの季節の人気。 下ごしらえの段から、鼻孔は山菜達に支配され、揚げたてを口に放り込めば、鼻から口から、春の香りを満喫できる。 春の山菜達、それは、冬の間に蓄えていた力を一気に爆発させる若い喘ぎのようだ。 運動もせずに、冬眠モードに入っていた怠惰な身体を、春の香りで呼び覚ましてくれる。 皮下に脂肪を蓄えて、節約モードで貯め込んでいた体内の老廃物を春の苦みで追い出してくれる。 そんな力を持った春の山菜、毎年、刻み続ける大切な味覚と嗅覚の記憶だ。

● ● ● ●蕗うまさの秘密 ● ● ● ●

香りと苦みは言うまでもない。蕗のうまさはそれに加えて、食感と彩りだ。 澄み切っているのに、渋みのある、薄緑色。目にも優しい、なんとも日本的な色彩だ。 「筋の通った」茎を噛みしめる時の絶妙なテクスチャー。一本一本の繊維の管から香りと苦みが舌に押し寄せる。 水蕗は先に茹でて皮を剥く。縦にツーと剥くのが面白く、4歳の娘は必ず手伝ってくれる。

皮を剥きながら、時々の手指を鼻に近づけては「くちゃーい」と顔をしかめる。 剥いた半分は、青くきれいなまま、薄味をつける。酒、みりんに塩を加えて煮立てものに、つけておく。 残りの半分は、酒、みりん、濃口醤油、さとうで辛煮にする。 薄煮は漬け物やサラダのような感覚でむしゃむしゃと、たっぷり食べる。 辛煮はお茶請け日本酒のつまみ、ごはんの友にぴったりだ。
「蕗の薹(ふきのとう)」も忘れてはいけない。これは、蕗の花茎で、香りとほろ苦さにおいて 春の訪れを感じさせる抜群の素材だ。

■■■ 家庭でもほんとにおいしい、蕗料理アレコレ・ ■■■
実は蕗は砂糖との相性も抜群。砂糖漬けもおいしい。 「蕗餅」は子供も楽しく食べられる料理。 ホットプレートがあれば、食卓で作るも良し。

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蕗の薄煮は水分を切ってグラニュー糖をまぶす。 白玉粉を水でゆるめに溶く。 熱したフライパンに薄く油をしき、蕗をいかだに並べ、溶いた白玉粉でとじる様に焼く。 おやつなら、蕗の他に、具に、柚子味噌やつぶあんなどを使っても面白い。


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蕗の葉がまたうまい。辛煮にしてごはんにかけて食べるのは最高。 ごま油との相性が良いから、ナムルにしてもまたうまい! 「蕗の葉のナムル」


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蕗の葉は塩水で茹でて水気を切り、水に浸しておく。 えぐ味を確かめながら2~3度水をかえ、あくを抜く。 水気を良く絞り、おろしにんにく、擂りごま、ごま油、塩、砂糖を入れて、よく和える。 手でよく揉み込むようにかき混ぜる。すっかり馴染んで、渾然一体、乳化したのか?と思うくらいまで、かき混ぜる。


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蕗に負けず劣らず蕗の薹のおいしさも堪らない。 てんぷらにしてもこたえられないうまさだが、蕗の薹味噌にしてもいいし、 甘酢に漬けてもおいしい。本当に香りを楽しみたいなら、薄味の「ころがし煮」がいい。

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蕗の薹を1/2に切り、塩を入れた熱湯で5~10分湯がく。 たっぷりのお湯で一気に熱を通す。加熱ムラがあると、色が黒くなる。 あくが強い場合は、米のとぎ汁を使っても良い。 煮上がったらざるにとり、水に放しておく。何度か水をかえてあくを抜く。 (てんぷら以外の場合は、ここまでが共通の下拵え) 水気を切った蕗の薹をさっと油で炒め、みりん、さとう、薄口醤油でころがし煮にする。 薄味で、本来の香りと味を楽しみたい。

下越しらえした蕗の薹は油で炒めてから、白和えや甘酢漬けにしてもうまいし、刻んで蕗の薹味噌にしても良い。 味噌には少量の練りごまやピーナッツバターを入れるとおいしい。蕗の薹は、油、酢、味噌、砂糖、ごまやくるみ、ピーナッツ等との相性が良いようだ。


旦那の居場所、今回は「蕗(ふき)」のおいしさについてでした。 蕗は数少ない、日本原産の野菜。水分ばかりで栄養はなさそうですが、こう見えても、実はカロチンが豊富な優良な素材。 それより何より、あのほろ苦さが、身体に活を入れてくれる様な気がします。

摘んできた蕗を薄煮、辛煮にして、どっさりと盛り鉢に山高に盛って、日に日に和らいでくる空気の中で、縁側でちびちび酒を呑みながらつまむ。 他には何もなくても、きっと「日本に生まれて良かった~」なんて思うんだろうなあ。そんな暮らしまで夢見てしまうというから、ホント「蕗」の魅力とは不思議なものです。
(2001年4月 copywright hiroharu motohashi)

旦那の居場所第29回 冬の鍋礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています

鍋にまつわる思い出は枚挙に暇がない。学生時代、柔道部の合宿所で、他部の友人を 招いて行う鍋大会。時に相撲部に伝わる特製ちゃんこ等、客人から教えられた味も多い。 蓋を開けると立ち上る湯気。冬の鍋には日本人に生まれて良かった。と唸らせる滋味がある。

● ● ● ●冬の鍋うまさの秘密 ● ● ● ●

寒さと共に素材が本当にうまくなる時期、気の合う仲間と鍋を囲めば、いつしか「おしくらまんじゅう」をしている 様なしみじとした連帯感が広がる。 梅が香り、桜がほころぶ季節になっても、しんしんと堪える花冷えの夜には、これまた鍋が良く似合う。 新しい季節の訪れを感じさせる、命の息吹を鍋にたっぷり放り込めば、眠っていた身体が目覚めるほどの 香りとほろ苦みを楽しめる。 初対面でも「それでは自家箸で。」なんて一言断れば、もう気分は親戚同然だし。

家族団らんを絵に撮れば、もう鍋を囲む姿しか想像できない。 「すきやき」「しゃぶしゃぶ」でなく、「ちゃんこ鍋」や「ねぎま鍋」などつつく男女を見たら、 差しつ差されつ、それはもう「疑わしきこと、羨ましきこと、甚だしい」雰囲気となる。 全国津々浦々、数多ある鍋の中で、記憶に残る鍋のうまさ。それは必ず、一緒につついた誰かの 笑顔と重なる忘れられない、懐かしい懐かしい舌の思い出だ。

● ● ● ●冬が嬉しい、春が待ち遠しい、うまい鍋たち ● ● ● ●

6年振りに東京で過ごす冬。人形町のねぎま鍋、よし田のかも鍋、新三浦の水炊き ちゃんこ川崎のちゃんこ鍋、神田のあんこう鍋・・。財布と相談すれば、とても一冬では回りきれない。 その上全国各地でうまい鍋が僕を呼んでいる。ふぐ、かき、アラ、ぶり、鮭、カニ、鯨、・・はてさて、どうしたものか。 人生先は長いから、今年はいけるところまでで、まあ良いか。 初春の素材もまた楽しみだ。菜の花、ふきのとう、蕗、せり、みつば。変哲もない寄せ鍋を彩る春の香り達。 さっと火を通す度に鼻孔から春を感じる幸せ。美しい日本の季節に、彩りを添えてくれる、うまい、うまい鍋たち。

■■■ 家庭でもほんとにおいしい、鍋料理アレコレ ■■■

中学の修学旅行で京都に行った。泊まったホテル「大富」で食べた鍋のうまさは今でも舌に焼き付いている。 あまりのうまさに仲居さんに尋ねると、「へえ、大富鍋いいますねん。」「ピーナッツをあたってだしに入れるんどす。」と来たから驚き。 何度か嗜好錯誤して行き着いたあの時の感動。ピーナッツバターを使って再現した「京都で出会ったピーナッツ鍋」 ピーナッツバターは「スキッピー」に限る。「クリーミータイプ」ならそのまま。 「チャンクタイプ」なら味噌漉しで固形のピーナッツを除いて溶かし混む。 騙されたと思ってお試しを。よくある、甘いタイプのピーナッツバターは使わないで下さい。 また、独特の風味が野菜の滋味を消すので、ごまペーストでは代用できません。


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だしは、水だしのこんぶだしに「ほんだし」「瀬戸のほんじお」濃口・薄口醤油で味付け。 冬の野菜の滋味を活かす為、白菜の芯、ねぎの青いところ等を入れてくたくた煮る。 骨付きの鶏肉等や干し椎茸は予め入れてうま味を引き出す。 だし野菜を捨て、改めて白菜の固いところを入れて透き通るまで煮る。 だしにピーナッツバターを溶かし込んだら味が一変。なんといも言えない味になる。 その他の具は、豆腐、京菜を必須にして、どんなものでもよく合う。 餅や生麩は最高。最後はうどんを入れても絶品。


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シンプルな具、シンプルなだしの組み合わせが、絶叫する程うまい鍋になる。 そんな鍋が一家に一つはあるだろう。豚肉のスライスとほうれん草だけをポン酢で食べる「常夜鍋」もその一つ。 鶏とタコのつくね団子をうどんのだしで食べるシンプル鍋も絶品だ。「鶏タコ鍋」のうまさにいつも脱帽。


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だしは、「ほんだし」、「瀬戸のほんじお」、みりん、薄口醤油。 関西風のうどんだしを作って欲しい。(味の素kkの関西風うどんおでんだし「どんでん」ならその他の調味料は不要) 鶏肉のミンチに、細かく刻んだタコと紅生姜を入れ、少量のしょうが汁、たっぷりの水で混ぜる。 スプーンで丸めて次々と鍋の中へ。煮えるのが待ちきれない程のうまさだから、喧嘩にならないようご用心。 薬味代わりにせりやみつばをたっぷり入れたら、また最高。最後の雑炊が、これまた最高。


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牡蠣、ベーコン、豚バラ、生鮭、キャベツ、これを楽しむにこんな鍋は如何。 こってりそうだが、こってりではない。身体に優しい、優しいお鍋。 「牛乳チーズ鍋」

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「コンソメ」などで味付けしただしで、キャベツを煮る。 牛乳をだしの1/3程度入れて鍋大会開始。ベーコン、豚バラ、牡蠣等々。 バッチ毎に溶けるチーズをふりかけて。 最後は生米を入れて目の前でリゾットが楽しい。



旦那の居場所、今回は「冬の鍋」のおいしさについてでした。 だしのうま味を存分に吸った白菜や生麩。口に入れるとぴゅっと飛び出す熱々のねぎの汁。湯気と共に飛び込む春菊の香り。歯応えを残して楽しむキノコ達。 鍋の良さは、自分の好きな素材を自分の好きな加熱加減で食べられること。 出来上がりを考えて投入する順番を決め、好みの薬味で食べる。だから不思議と一鍋に一人、鍋奉行が誕生する。

今日は鍋!と決めた時から、鍋に味をつけるか、水炊きにして手元のゆずポン酢で食べるか、迷いに迷う。もちろん、鍋の種類でお酒の種類や飲み方も変わるから、どんな酒で楽しもうか、またまた、迷いに迷う。 最後にだしに投入するのは、ご飯か麺か、これまた、迷いに迷う。 鍋の翌朝、土鍋に残り汁等あろうものなら、朝からまた一献しながら、一鍋始めてしまうというから、 ホント「冬の鍋」の魅力とは不思議なものです。
(2001年3月 copywright hiroharu motohashi)

旦那の居場所第26回 やきものの里小石原「マルダイ窯」礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています

かれこれ、6年程前になろうか、レンタカーを借りて、やきものの里、小石原を訪ねた。 秋月から抜ける悪路で峠を越えると、そこは、鄙びた里であった。 一人旅の気侭さで、ほとんどすべての窯を歩き、ここぞという窯で大ぶりの片口鉢と 味わいのある汁次を求める。○印に大という銘。今も懐かしいマル大窯との出会いだった。

歯切れの良い、声の大きい奥さんに、福岡空港までの近道を尋ねると、 「今からうちの人が、市内に個展の片付けにいくからついて行く?」と、 溌剌と笑った。「お言葉に甘えて」出発までぶらぶらと時を過ごした。 無口だが人の良さそうな旦那さん、明るく気さくな奥さん。 広い敷地に、大きな仕事場、旧家を移してきたという重厚な茅葺きの母屋。 私道に沿って小川が流れ、聞こえるのは遠くに犬の鳴く声、唐臼の音。 初めて訪れたのに、立ち去り難い郷愁の念にかられた居心地の窯、癒しの里。

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● ● ● ●うまいものに囲まれて器を焼く ● ● ● ●

それから、縁あって、幾度も伺うようになったマル大窯。その度に、「お茶請けに」とか 「この器にはこんな料理が」などと、奥さんの料理を口にする機会に恵まれる。 「裏の畑でとれたもの」が「ここの窯で焼いた器」に盛られて、信じられない程うまい。 時間があれば、奥さんは裏の畑に手を入れ、義母から料理の技を乞う。 やっとコンニャクが思い通りに作れたとか、今年は鹿が蕎麦の実を全部食べてしまったとか、 楽しい話題は尽きることがない。 地の素材、地の土。そこから、こんなにも豊かで、崇高な恵みを得ることができる。 ああ、豊かかな、小石原の土。

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● ● ● ●我が家のふるさと宅配便 ● ● ● ●

マル大窯の奥さんは、女将の仕入れに必ずと言っていいほど、心暖まるメッセージと 新鮮な野菜を入れてくれる。 その多くは、「ふーん、はて、スーパーで売っていない野菜、どう調理したものか?」である。 水いもの茎、むかご、芋茎(ずいき)、隼人瓜にそうめん瓜…・。 女将と大騒ぎ、白旗を上げてTELする時もあるが。こういう頭の使い方も楽しい。 小石原で食べた記憶を頼りに、見よう見まねで作っても、何故かうまい。
東京出身の奥さん、「この人とは何故か話があった。とても楽しくて誠実な人」だから、太田成喜さんを選び、 「大家族に囲まれて、最愛の人達といつも一緒に、生活そのものを楽しみたかった」 から、小石原の里に嫁いだ。 今日も、小石原からの箱を開けると豊かな自然、細やかな情けの匂いがする、我が家のふるさと宅配便。 ああ、美しいかな、小石原の里。

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■■■ ・・小石原の野菜で作る、料理アレコレ・・ ■■■
玉ねぎの食感が最高の隠し味。鮮やかな赤に染まった芋茎。 煎り胡麻を擦って、ぱらっとかける。 贅沢な、贅沢な「芋茎の甘酢漬け」。大田さんに教わった逸品。

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鍋にごく少量の油を敷き、玉ねぎのスライスをシャキッと炒める。 芋茎は皮を剥き水煮にしておく。 さっと火にかけた酒1、みりん1に、淡口醤油1、酢1を混ぜタレとする。 芋茎、玉ねぎを混ぜ、タレに漬けておくと、翌日には見事なピンクに変わる。 (

 


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そうめん瓜の食べ方は、いろいろ。 でも、炒めても、またうまい。 せんぎりにして、半生かな?という感じにしゃきっと炒める。 「そうめん瓜のカリカリ炒め」

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輪切りにしたそうめん瓜を湯がき、水に取りほぐす。 (まるでそうめんの様に繊維状になる) 水気を切り、ごま油でさっと炒め、好みの味で。 シンプルな塩味もうまい。 この他、そうめん瓜は、千切りの胡瓜、ハムなどと一緒に和風ドレッシング で和えてもうまいし、マヨネーズでスパゲティーサラダ風でも楽しめる。 ほぐさず、サイコロ状にして砂糖や蜂蜜のシロップ漬けにしても、楽しいデザートになる。


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水いもの茎はしゃきしゃきとした食感が身上。 パリンとしたスライスに酢味噌をさっとかけて。 水いもの茎が酢味噌に合うのは、有田は龍門ダムの川魚料理の名店 「龍水亭」で学んだ食べ方。 酒に良し、肴に良し、 こってりとした料理のつまにも良しの、「水いもの酢味噌シャキシャキ」。
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水芋の茎は、水に張り、皮を指で縦に剥く。 断面が映える様にスライス。 酢味噌をかけて、シャキシャキのうちに食べる。


旦那の居場所、今回は、やきものの里小石原「マル大窯のうまいもの」についてでした。 手塩にかけて育てた野菜に、必ず「いりこ」や「かしわ」等、動物性のうま味を かくし味に使う技が絶妙の味を醸し出す。 小石原の里の郷土料理「おばいけの炊き合わせ」は、 新じゃが、筍、にんじん、里芋などを「おばいけ」と一緒に炊き合わせた絶品。 保存の利く海の幸と、裏山で採れた山の幸との融合。 今の時代にあって、「質素」「素朴」であるが故の「豊かさ」を感じるこの里の料理。

女将の仕入れで訪ねる商談のはずが、いつしか座敷に上がり込み、 一杯ひっかけながら長居をしてしまう。まるで、故郷の我が家でくつろぐ様な 錯覚に囚われつつ、ついつい食も酒も過ごしてしまうというから、 ほんと、やきものの里「マル大窯のうまいもの」の魅力とは不思議なものです。
(2000年11月 copywright hiroharu motohashi)

旦那の居場所第23回 玉葱礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています


ある日、突然、居酒屋から「オニオンスライス」なるメニューが消えた。 学生時代、過酷な夏の稽古の後に、風呂に入って、居酒屋直行。 「冷奴」「オニオンスライス」「冷やしトマト」だけを注文して、 生ビールを何杯か飲んだ。どこの店にも必ずあった「オニオンスライス」 たまねぎが辛すぎないこと、でも、独特の硫化アリルの風味と辛味が残っていること。 そして、よく水が切れていること、削り節が載っていること。 たったこれだけだが、意外と難しい料理。 ビールの冷たさに縮みあがった胃袋に、 辛味の刺激が堪らない・・ああ、なつかしのオニスラちゃんは今どこに!

● ● ● ● 玉葱のうまさの秘密 ● ● ● ●

外皮はビニールのようなパリンパリンの黄金色、切ると涙がポロポロ。 口に入れれば、刺激的に辛い。普通、考えれば、「これは毒があるかな?」とも思われる程の野菜だ。 昔の人はよくこれを食べる気になったな。しかし、ピラミッド造りに駆り出された 人々が食べていたというから、人類との付き合いは古い。ビタミンC、糖質を多く含み、 ビタミンB1の吸収を助ける。新陳代謝も活発にするというから、超ハードな肉体疲労時には 最適だったのかも知れない。

この辛い野菜、不思議なもので、加熱することで、甘味が出てくる。 この甘味成分は、プロピルメルカプタンといい、砂糖の50~70倍の甘味を持つ。 加熱により、独特のコクと風味も増して、これが肉類には良く合う。ソースの味を支える力強さは抜群だ。 加熱の具合や切り方によって、しんにゃりやしゃきしゃき、辛味、甘味や苦味、千変万化な味のアクセントが 楽しめる。 シャキ感を残す程度の炒め具合もよし、鼈甲色にまで炒めてまた良い。 ドライカレーの上にカリッと揚げたオニオンが載っていたら、もう気分は豪華客船。 煮てよし、炒めてよし、揚げてよし、生でよし。ああ、うまいかな、たまねぎ。


● ● ● ●永遠の名脇役 たまねぎ ● ● ● ●

たまねぎが主役の料理は少ない。「オニオンスライス」「オニオンリング」「オニオングラタンスープ」くらいかな。 それでいて、様々な料理の材料として顔を出す。カレーをはじめソースやシチューにはかかせない。 黄金色になるまで炒めたやつが、ソースの風味を決定付ける。 ハンバーグのつなぎにも最高だ。肉のうま味を抱留め、ジューシー感を演出し、さらにそれに気品を添える。 コロッケ、オムレツ、牛丼、肉じゃが、酢豚、どれもメインの素材ではないが、 たまねぎが入らなけりゃ、勝負にならない。 生でも、みじん切りを煮込み料理に散らして薬味にしたり、ドレッシングにたっぷり入れれば、 ナチュラルな甘辛さと風味を楽しめる。 自らは決して出張らず、しかして、いないと誰もが困る。たまねぎ君よ、あんたはカッコウ良すぎます。

■■■ 家庭でもほんとにおいしい、玉葱料理アレコレ ■■■
たまねぎのてんぷら、オニオンリングは大好物だ。 たまねぎではないけど、山東ねぎをフライにしたやつをゴバッとかけるラーメン店もあったなあ。 正統派ドライカレーにも、フライドオニオンは欠かせない。 たまねぎと油の相性は抜群、サクサクの食感とともに、えも言われん甘さを楽しみたい。 「たまねぎチップス」


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たまねぎは7mm程度の輪切り。切ったら30分程度ざるに並べておく。 片栗粉を両面に薄くまぶしてフライパンに並べ、サラダ油をひたひた程度に入れて揚げ焼きにする。じっくり加熱し、最後は温度を高めに。 油は新しいものを使いたい。臭いのない、さらさらの「ピュアライトオイル」で揚げると、たまねぎ本来の風味もよく、たくさん食べてもムカムカしない。 ラーメンや冷中華の具にしても最高。崩れたやつは、カレーにかけたり、お好み焼 に入れてもうまい。


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たまねぎの辛味、風味が大好きだから、新たまねぎには物足りなさを感じる。 水分が多いから揚げ物にも適さないし、じっくり炒めても、複雑な風味は望めない。でも、このシーズン、やはり、新たまねぎを見ると、つい手を伸ばし、サラダにしたり、 酢の物にしたり、アレコレ結局食べてしまう。 「新たまねぎの丸焼き」、新たまの究極の料理法?である。


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ぐるり一枚だけ、皮をむき、表面にオリーブ油を塗って、オーブンへ。 焼けたら、まわりの皮を一枚剥いて、中身をむしゃむしゃ食べる。 味付けは不要、でも、試してみたいお方は、ご随意にどうぞ。 塩、醤油、バター等等、もちろん、うまい。


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たまねぎは、最高の漬物の素材でもある。お酢との相性が良いから、 あっさりとした浅漬けがとても良い。小たまねぎ(ぺコロス)のピクルスも当然うまい。 というわけで、夏にピッタリの「たまねぎの桜漬け」 きれいなピンク色の正体は、好みにお任せします。

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たまねぎは繊維を断ち切る様にスライス。(炒めに使う時は繊維に沿う) 塩で軽くもんで、漬け汁に漬け、冷蔵庫で3時間程度から食べられる。 基本の漬け汁 酢、赤ワイン、レモン汁、砂糖 好みで赤ワインの替わりに、梅干、梅酢、からし明太子、新しょうがを漬けた酢 など きれいな桜色に仕上げる素材を試してみると面白い。辛味が強い場合は、オニオンスライスの要領で水にさらしてから使うと良い。 たまねぎや大根等、辛味のばらつきが大きい素材は、「切ったら、まず味見」を習慣付けたい。



 


旦那の居場所、今回は「玉葱(たまねぎ)」のおいしさについてでした。 女将の得意料理は、和え物。火力を使わず、切って、和えるだけの料理が多い。 その一つに、抜群にうまい「タコのマリネ」がある。材料はたまねぎ、ゆでタコ、レモン。 たまねぎは繊維に直角にスライスして水にさらし水気をよく切り、薄く切ったタコを混ぜる。 レモン、塩(隠し味にはグレープシードオイルや醤油、青しそ等)で味付け、しばらく味が馴染むまで、冷蔵庫で冷やす。 主役はタコなのだが、実は本当に うまいのはたまねぎなのだ。だから、たこの代わりに、甘えびでも、生ハムでも、 スモークサーモンでも、何でもいける! ビールでも、ワインでも、何にでも合う夏らしい逸品。

女将の料理の簡単さにも舌を巻くが、 食べる度に、うまい!と絶叫させられる、たまねぎの爽やかさに、 梅雨も吹き飛ぶ程、感動してしまうというから、ほんと玉葱(たまねぎ)の魅力とは不思議なものです。
(2000年6月 copywright hiroharu motohashi)

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